幸福なポジティヴィスト

アイコンの作者忘れてしまいました。

歌詞カードの考古学――amazarashi『それを言葉という』を事例に

 ボーカルの秋田ひろむを中心に結成されたamazarashiは,「言葉の力」を思想的な核として,歌詞をビジュアライズするスピーカー「Lyric Speaker」とのコラボレーションを続けている.2009年に音楽と連動して歌詞を表示するウォークマンが「新音楽体験」と広告されたように,音楽と歌詞の融合はしばしば最新のメディアテクノロジーによる「新しい体験」として宣伝されてきた.しかし,音楽と歌詞を同時に楽しむ試みは,テクノロジーの発展史とは別の領域で,すでに「歌詞カード」というメディアによってもたらされていたのではないか.音楽を視覚的に表現することについて,秋田は次のように述べている.

 僕自身も最近は歌詞カードで歌詞を追いながら曲を聴くということが少なくなりました.でも今になって思えば,その聴き方は音楽の世界に潜り込んで行く為の儀式のようなものだったと思います.一度聴き流すだけでは伝わらない,言葉と音が持つ原風景の追体験だったと思います.僕らがやろうとしていることはそういうことです.(「秋田ひろむ インタビュー」https://realsound.jp/2019/02/post-315597.html,最終確認2019/2/19)


 歌詞カードを目で追いながらラジカセに耳を傾け,音楽の世界に入り込んでいく.そして聞くだけでは飽き足らず,ついには身振り手振りとともに自分の声で歌い始めてしまう.「歌の意味を知りたい!」「声に出して歌いたい!」といった欲望に歌詞カードが視覚メディアとして応えてきたように,視覚的な音楽体験はすでに音楽をめぐる総体的なテクスチュアを成していた.こうした意味でamazarashiの挑戦は,五感の境界を取り除き,有限な身体にもたらされる一期一会的な創造的体験を生み出すことになるだろう.