M・フーコー『知の考古学』Ⅱ-Ⅲ 対象の形成
<書誌情報>
Michel Foucault, 1969, L'Archéologie du savoir, Paris: Gallimard.
(=2012,慎改康之訳,『知の考古学』河出書房新社.
- 作者: ミシェル・フーコー,慎改康之
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2012/09/05
- メディア: 文庫
- 購入: 7人 クリック: 19回
- この商品を含むブログ (37件) を見る
Ⅲ 対象の形成 ⇦いまここ!
Ⅳ 言表様態の形成
Ⅴ 概念の形成
Ⅵ 戦略の形成
Ⅶ 注記と帰結
Ⅲ 言表とアルシーブ
Ⅰ 言表を定義すること
Ⅱ 言表機能
Ⅲ 言表の記述
Ⅳ 稀少性、外在性、累積
Ⅴ 歴史的アプリオリとアルシーブ
Ⅳ 考古学的記述
Ⅰ 考古学と思想史
Ⅱ 独創的なものと規則的なもの
Ⅲ 矛盾
Ⅳ 比較にもとづく事実
Ⅴ 変化と変換
Ⅵ 科学と知
Ⅴ 結論
訳注
訳者解説
人名索引
事項索引
Ⅲ 対象の形成
1.本節の課題
・「形成の諸規則」の観念を具体的に論じること.
そうした配分の諸要素(諸対象,言表行為の様態,諸概念,諸々のテーマ的選択)が従う条件については,それを,形成の諸規則と呼ぶことにしよう.形成の諸規則とは,ある一つの言説配分における,存在の諸条件(さらには,共存,維持,変容,消失の諸条件)のことである.(77)
→①対象の形成,②言表行為の様態の形成,③概念の形成,④テーマ的選択の形成にわけることができる.
⇒本節では,①の対象形成について,19世紀以来の精神病理学の言説を例として取り上げながら,具体的に論じていく.
2.精神病理学の対象の形成
〇年代学上の切断
・2つの切断
①19世紀初頭において,精神病院のなかに狂人を排除し組み入れるための新たな様式が確立したということ.
②エスキロール,ハインロート,ピネルへと遡ることは可能だが,それより先に遡ることはできない.
・年代学的切れ目以降の対象
→運動性興奮,幻覚,言語障害といったすでに狂気とみなされはじめていたものに加えて,軽い変調,性的錯乱と性的障害,暗示と睡眠,中枢神経系,知性,もしくは運動の適応不全,犯罪性などそれまで精神病理学の対象外だった対象が出現した.
Q 精神病理学の言説にこれらの諸対象が現れるにいたった規則を,打ち立てることができるのだろうか.言説の対象としてのそれらの存在は,いったいどのようなものなのか.
a 対象の出現の最初の表面を標定する.
→例えば「狂気」と位置付けられる個別的差異が,「狂気」と指示され分析されるようになるために,いったいどこに出現することができるのか,という論点.=「出現の表面」
→この「出現の表面」は,社会文化的,歴史的,言説様態ごとに異なる.
Ex)19世紀の精神病理学の出現の表面は,家族,親密な社会グループ,仕事環境,宗教共同体で,いずれも規範を構成し,逸脱に敏感なもの.これに加えて,芸術,セクシュアリティ,刑罰が新たな出現の表面となる.
→差異化の領野で,精神医学の言説は対象を指示していく.
b 境界確定の審級
①医学:プロフェッション,世論や司法,行政から認められた権限として
②司法,とりわけ刑事司法:有罪無罪,量刑などなど
③宗教的権威:神秘と病理,精神と身体,超自然と異常の分割,良心の指導
④文学及び芸術の批評:作品の解釈から一人の作者の表現の作用を認めるべき言語として扱う.
c 種別化の格子
→「狂気」を対象とする際の拠り所となるシステム.魂,身体,この生と生活史.神経と心理の相関関係.
⇔これらa~cの3点は,対象を全面的に構成された状態では提供しない.
→①言説は,あらかじめ設定された諸対象がやってきてそこに積み重なるような場所ではない.
→②言説の対象が出現できる面と面との関係については言及していない.
〇言説の対象の出現
・対象の出現は1つの発見の結果.
⇔
実際,問題は,そうした事実を可能にしたのは何かを知ることであり,それらの「発見」を,それらに続く他の諸々の発見が取り上げ直したり,修正を施したり,変更を加えたり,場合によっては無効にしたりしえたのはどのようにしてなのかを知ることなのだ.
・特定の諸関係の集合が作動する.
→多様な対象の1つの集合の形成を可能にした.
⇒19世紀の精神医学的言説を特徴づけたのは,特権化された対象ではなく,その言説が自らの諸対象を大きく分散したままにとどめつつ形成するやり方である,と.そしてそうした形成を保証するのは,出現の審級,境界確定の審級,種別化の審級のあいだに打ち立てられる諸関係の集合である.