幸福なポジティヴィスト

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鈴木宗徳,2015,『個人化するリスク社会――ベック理論と現代日本』

<書誌情報>
鈴木宗徳,2015,「序章 ベック理論とゼロ年代の社会変動」『個人化するリスク社会――ベック理論と現代日本勁草書房

個人化するリスクと社会: ベック理論と現代日本

個人化するリスクと社会: ベック理論と現代日本


1.ベック・テーゼを問いなおす
〇ベック理論が果たしたの貢献
①大気・水・食品に含まれる化学物質がもたらすリスクをめぐる問題.
→化学物質が人々に不安を与えることによってどのような社会的・学問的・政治的帰結が生じるのか.
②人生設計やアイデンティティの構築における個人化をめぐる問題
→失業や離婚など人生がリスクに満ちたものとなり,標準的なライフコースを歩む可能性が失われ,中間集団が諸個人に安定したアイデンティティを提供できなくなる.その結果,人々は故人の責任でリスクに対処せねばならず,自分の人生設計とアイデンティティを修正することを強いられる.
グローバル化コスモポリタン化をめぐる問題.
グローバル化は人々の流動性を高め,国や地域,家族といったものの粘着性がうすれ,ますます個人化する.リスクもまた国境を越え,一国単位のリスク管理では用をなさなくなった.
⇒「リスク社会」「再帰的近代」「第二の近代」といったテーゼ.

〇変化の理論
・「変化」を描き出す理論
⇔20世紀の社会理論は,再生産のメカニズムの探求
デュルケームウェーバージンメル,テンニースもまた近代という新しい時代とそれに伴う変化についての探求.

2.ベックの個人化論
〇日本における受容の背景
・日本社会の変化
→1990年代後半のトピックは,グローバル化経済の浸透,格差論,中高年のリストラ,非正規雇用の拡大などなど.失われた10年を一時的な景気変動としてではなく,構造的かつ包括的な社会変動として分析しなければならないという問題.

〇個人化の枠組み
①生活の安定を保障し,諸個人のアイデンティティの基盤となる中間集団や制度が弱体化すること.
Ex) 階級,家族,企業,地域的な共同体,国家などが担っていた機能.
帰属意識の衰微とともに雇用や不平等の問題は残ったままであり,失業や貧困は故人の責任で解決する問題へ.また近代家族がジェンダー役割に基づくライフコースを設定していたが,規範のゆるみと共に,家族はリスクを安定化させる役割を果たせなくなる.
⇒選択の自由を獲得すると同時に,新たなリスクや不安が課されるという矛盾.

②ライフコースが脱標準化・多様化することで,自分の人生設計を自分自身で再帰的に構成し続けなければならない.
→中間集団の弱体化によって,アイデンティティの構成や紛争に関わる負担が増加する.
⇒選択の自由を獲得すると同時に,新たな負担が課されるという矛盾.

③個人の選択余地の拡大と自己決定の重要性は,依然として労働市場,福祉政策,教育制度などによって規定され続けている(=「制度化された個人主義」).
→規定され続けているにもかかわらず,選択の責任が課されてしまい,個人化のリスクや負担から逃れられない.
⇒選択の自由を獲得すると同時に,新たな責任が課されるという矛盾.

④リスクと個人化が切り開く,新たな関係性と,政治の可能性.
→特定の集団への帰属意識の衰微と共に,ネットワークを基盤とした柔軟な関係性が発展する.リスクや不安を共有した者同士が国境を越えた連帯を生み出す.
リスク管理の脱階級化・脱国境化.
⇔こうした政治参加のあり方が,どの程度社会的影響力を発揮するのかについてはいまだ不明.

〇個人化論と社会学
・きわめて社会学的な個人化論
→個人を取り巻くマクロな社会変動を照射する概念であり,個人がいかに社会によって翻弄されるようになったかを問題化するものである.
⇒個人を論じているようで核心は社会にある.

〇獲得したものと課されたもの
・獲得したものは,選択の自由.
・課されたものは.「リスク」「不安」「負担」「責任」
⇒この矛盾的な二者択一をどのように乗り越えていくのか.最大限の選択の自由と最小限のリスク,負担,責任.
⇒ベックのドイツ的リスク社会とは別の,日本社会の条件・環境・経路依存の中にある可能性を構想する試みが求められている.


[参考]