幸福なポジティヴィスト

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山腰修三,[2005] 2012,「第1章 能動的オーディエンス論再考——記号論的民主主義論をめぐる論争」

山腰修三,2005,「カルチュラル・スタディーズの諸相」小川浩一編著『マス・コミュニケーションへの接近』八千代出版.(再録:2012,「第1章 能動的オーディエンス論再考——記号論的民主主義論をめぐる論争」『コミュニケーション研究の政治社会学』,19-48.

目次

序章 カルチュラル・スタディーズ以降の政治コミュニケーション――批判的コミュニケーション論における「政治」の再発見

第1部 政治コミュニケーションに関する理論的考察

 第1章 能動的オーディエンス論再考――記号論的民主主義をめぐる論争   ⇦いまここ!
 第2章 批判的コミュニケーション論の視座転換――ホールのサッチャリズム研究から
 第3章 メディア言説の分析枠組み――批判的言説分析のアプローチ
 第4章 政治コミュニケーション研究の新戦略――ラクラウの言説理論とラディカル・デモクラシー

第2部 日本政治社会における事例分析

 第5章 高度経済成長の論理と「水俣」の言説――1950年代後半の『白書』と新聞の言説分析
 第6章 「新自由主義」に関するメディア言説の編制――「電電公社改革」報道の分析から
 第7章 高度情報社会の「オーディエンス」――テレビ・オーディエンス像の変遷と言説的構築
 第8章 「小泉改革」のテレビ政治とオーディエンス――「靖国参拝」報道の言説分析

終章 政治コミュニケーション研究の展望

あとがき
初出一覧
引用・参考文献
索引




1.本稿の課題
カルチュラル・スタディーズのオーディエンス論
・オーディエンスによるマス・メディアのメッセージの解読は「支配的意味づけ」に対しても「対抗的な意味づけ」に対しても開かれており,マス・メディアのテクストは多様な意味づけをめぐる闘争の場である.
→オーディエンスのテクスト読解による抵抗を強調する「記号論的民主主義」の提示.
・日常生活や文化的領域における政治的実践の発見.
→なかでも.マス・メディアが重視された.
⇒本稿の課題は記号論的民主主義を再考し,これが抱える問題をラディカル・デモクラシーを参照しながら考察し,政治コミュニケーション研究の批判的視座の再構成に向けた課題を提示する.

2.カルチュラル・スタディーズの問題構成
多元主義的民主主義モデルへの批判
→制度的な参加が制約されてきたマイノリティをめぐる政治を適切に分析できていない.大衆文化や対抗文化,労働者階級分化の中に,民主主義発展に向けた肯定的な価値を見出す.
⇔同じく文化に注目したフランクフルト学派は,大衆文化が人々の価値観の画一化と政治からの逃避をもたらすと批判.政治経済学は,メディア・コングロマリットの台頭により文化が一部の政治・経済エリートに独占されていると批判.

・「エンコーディング/デコーディング」モデル
→意味は線状的コミュニケーションによって伝達されるのではなく,意味の生産(エンコーディング)と消費(デコーディング)の総体的なコミュニケーション過程のなかで繰り広げられる「意味付けの政治」状態にあると論じた.
→①テクストの多意味性,②オーディエンスの能動的読解,③マス・メディアは意味付与をめぐる闘争の場
・オーディエンスの能動的読解
→支配的—ヘゲモニー的立場,交渉的立場,対抗的立場の3つが想定される.
→交渉から対抗へと転換するところに闘争の契機があると想定された.
chanomasaki.hatenablog.com


〇能動的オーディエンス論
・「エンコーディング/デコーディング」モデルの発展形態
・階級に還元されない,複雑な社会的諸条件によって「読み」が決定されている(Morley 1980)
・「ポピュラー文化」の読解を通じたアイデンティティ形成(Ang 1985)
→文化をテクストとしたとき,多義的なメディア・テクストが多様な社会的経験と結びつけながら意味が生成されていることになる.これを「間テクスト性」という概念と呼ぶ.「あらゆるテクストは必ずほかのテクストとの関連で読まれる」(Fiske 1987).

3.カルチュラル・スタディーズの能動的オーディエンス論への批判
・オーディエンスの能力を過大評価し,日常生活や文化におけるミクロなアイデンティティの政治を重視する一方で,政治・経済のマクロな過程の分析は不十分である.
・多様性や差異の発見,闘争領域の拡大と複数化を主張する一方で,自らの提示する民主主義観を提示できていない.また境界線の引き直しにともなう新たな境界線がもたらす抑圧や排除にどのように答えるのかが明確ではない.

4.ラディカル・デモクラシーの視点
・ラディカル・デモクラシーは,集合的同一性の構築を拒否する極端な多元主義は,個別が個別にとどまることで支配システムに取り込まれる危険性があることを指摘し,いかにして複数の個別のアイデンティティや主張が対立や連帯を行いながら「われわれ」という共通のアイデンティティや理念を構築していくのか,というヘゲモニーの政治を取り入れた「ラディカル多元主義」という立場を掲げる(Laclau 2005;Mouffe 2007).

5.批判的コミュニケーション論とラディカル・デモクラシー論の接合の契機
批判的コミュニケーション論とラディカル・デモクラシー論を接合する契機が,複数のアイデンティティが1つのヘゲモニー新自由主義とか歴史修正主義とか)を担う主体へ統合されていく過程を分析するスチュアート・ホールのサッチャリズム分析にあるのではないか?
→次章へ続く.