津田正太郎,2016,「第2講 国家はいかに情報ネットワークを活用してきたのか」
<書誌情報>
津田正太郎,2016,「第2講 国家はいかに情報ネットワークを活用してきたのか」『メディアは社会を変えるのか——メディア社会論入門』世界思想社,12-21.
- 作者: 津田正太郎
- 出版社/メーカー: 世界思想社
- 発売日: 2016/03/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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〇国家とは何か?
・(政治学・社会学の用語で)一定の領土内の暴力装置を独占し,自らの暴力のみを正当なものとすることによって秩序を実現する.
⇔大災害が発生した際にパニックが生じることを恐れ,被災者を犯罪者予備軍として敵視し,被害を拡大させる事例.
Ex)サンフランシスコ大地震(ソルニット 2010: 64),関東大震災(西崎 2018)
・法による支配.予測可能性にもとづく秩序.
〇中央集権化と情報ネットワーク
・暴力装置の独占を可能にした情報ネットワークの発達(ウェーバー 1960)
→国家の領域の隅々にわたる統制力.監視装置としての情報ネットワーク.
Ex)再帰的モニタリング(ギデンズ 1999)
→社会の状態を常に監視し,そこから得られた情報を統治に生かしていく.
・福祉制度と監視
→良質な労働力と戦闘力をもった人間(身体)を育成するための福祉制度の拡充.「総力戦」の遂行.リスクへの対処.
→福祉への権利と義務をめぐり,対象となる全集団(population)を詳細に把握する必要がある(ライアン 2002: 125).
⇒一方的な抑圧としての国家の統制ではなく,リスクへの対処(ベックの「リスク社会」論*1),安定・安全の希求の側面も見落としてはならない.
〇自発的服従
・効率的な統治は,暴力による抑圧ではなく,自発的な服従.
→ミシェル・フーコーの「パノプティコン装置」(1977: 202).ベンサムが発明した「一望監視装置」(パノプティコン)とよばれる監獄のかたちは,近代的規律訓練の権力関係が行使されるときの基本原理を行使している.規律訓練とは,囚人のうちに自立した精神的な内面の領域をつくりだし,囚人がその内面の同一性のうちに自分自身の行動や振る舞いを帰属させ,管理する主体になるように仕向けることである.それゆえ,この主体の同一性が社会的な規範に合致するように,たえず問い直しを求める視線を,囚人の内面に植えつけることがめざされる.自己への従属による主体化=subjectivity.
・マス・メディア報道による犯罪やその原因の認知,逸脱への罪悪感の植え付け(山田俊治 2002: 202-206).
・メディア・パノプティコン
→メディア産業の追跡に自覚的なユーザーもいるが,多くは無自覚に自分たちの私的な生活や内緒事を開帳しているし,むしろ安全の担保のために望んでさえもいる *2個人・群衆,およびクラウドを管理するためのパノプティコン的ツールを統制するのはユーザーではなく,結局グーグル(メディア産業)である(エルキ・フータモ 2015,第6章を参照).
〇「イデオロギー的国家装置」としてのマス・メディア
・ルイ・アルチュセール「国家のイデオロギー装置」(1993)
→国家のルールや特定の政治的な立場に基づいた世界観,支配的価値観としてのイデオロギーに対し自発的な服従を促す組織で,マス・メディアのほかには学校や教会が含まれている.これらの諸装置は,ある人びとにとって都合の良いイデオロギーを広めるのに重要な役割をもっている.
・近代国家建設とマス・メディア
→日本の近代化の過程で,「国民」の内面化に新聞が重要な役割を果たした(山田 2002: 82-83).
〇民衆の抵抗運動と情報ネットワーク
・国家の統制だけではなく,民衆の抵抗や社会運動のリソースとしての情報ネットワーク
→米国が国家の情報管理のために作り出したインターネットは,国家の機密暴露の資源にもなっている(支配と抵抗の緊張関係を持つ技術の社会的構築).
[参考文献]
ソルニット・レベッカ,2010,『災害ユートピア――なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか』亜紀書房.
災害ユートピア――なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)
- 作者: レベッカ・ソルニット,高月園子
- 出版社/メーカー: 亜紀書房
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- 作者: エルキ・フータモ,太田純貴
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*1:ベックの「リスク社会」については過去記事を参照. chanomasaki.hatenablog.com
*2:2013年のNSAおよびCIA元局員のエドワード・スノーデンの暴露 NSAはテロ対策を名目に,“Collect it all =すべてを収集する”というスローガンを掲げ,極秘に民間通信会社や電話会社から,世界中の市民を含んだ通信や通話の記録を大量に収集.スノーデンの暴露後,アメリカ市民は自分たちの安全性が高まる限りにおいて政府による盗聴はやむなしと表明した.2017年4月24日の『クローズアップ現代+』が「アメリカに監視される日本 ~スノーデン“未公開ファイル”の衝撃~」というタイトルで取り上げた.