幸福なポジティヴィスト

アイコンの作者忘れてしまいました。

医療社会学におけるタルコット・パーソンズーー病人役割と専門職複合体

1.パーソンズの行為理論
 行為理論で知られるパーソンズは,医療社会学のパイオニアでもある.パーソンズの理論枠組みは,「主意主義的行為理論」「パターン変数」「四機能図式」が知られている.まず,「主意主義的行為理論」とは,環境や遺伝ではなく,行為者の能動的・主観的な働きかけを重視する点で「主意主義(voluntarism)」と言われる.「主意主義」を分解すれば,主体の意図・意思を中心とする行為理論と言えるだろう.英訳の「voluntarism」が自発的な行動を意味する「voluntary」と主義を表すismの熟語であることからも,この行為理論の意味が分かる.次に「パターン変数」とは,行為者が判断する際に依拠する価値基準を定式化したもので,以下の5つのパターンがあげられている.①感情性と感情中立性,②集合体志向と自己志向,③普遍主義と個別主義,④業績本位と所属本位,⑤限定性と無限定性.3つ目の四機能図式とは,適応(adaption),目標達成(Goal Attainment),統合(Integration),潜在的パターンの意地と緊張管理(Latent Pattern Maintenance and Tension Management)という4つの側面から捉えたものである.

社会学の行為理論の辞書的説明は以下.
chanomasaki.hatenablog.com

2.「病人役割」と医療社会学
 医療社会学におけるパーソンズの概念で重要なのは「病人役割」である.この概念の重要性は,様々な行為の連なりから社会構造を説明する理論的視座から展開された点であり,パーソンズが行為理論の人であったことと無関係ではない.つまり,病気や健康の問題に医学ではなく社会学の視点から取り組んだことが評価されているのだ.
 病人役割とは,病人を1つの社会的地位であり,通常の健康状態とは異なった役割期待が伴うというものである.病人やその周囲の人に向けられる役割期待は,病人に一定の権利と義務を与えるのである.例えば,病人が通常通りの能力を発揮しなくても,周囲の家族や同僚はそのことを問題視しないように期待されている.したがって,通常の義務を免除されるという権利を病人に与える.その一方で病人はできるだけ早く病気の状態から回復されるように期待されている.したがって,回復に専念しなければならないという義務が病人に課される.つまり,パーソンズの病人役割概念は,病気を生理的な作用によるものと捉えるだけではなく,社会から説明かつ承認されたものとみなすという点で生理と社会の交錯ということができるだろう.

3.ウェーバーの官僚制社会,市場の論理,そしてパーソンズの専門職による合議制アソシエーション
 ウェーバーの官僚制社会とは,人間をモノのように扱う管理制組織が社会全体に拡大することによって,機械化された社会的条件が生み出され,人間活動がそうしたシステムに従属せざるをえないという社会であった.これに対しパーソンズは,官僚制組織は,その内部に自律性を有する専門職を多数配置することによって合議的な方向に変容しつつあると結論付けた.官僚の意思決定がトップダウンで行われ,合理的なマニュアルに沿って行われるのに対し,医師をはじめとする専門職は,トップダウンで業務が遂行されるのではなく,現場の構成員に広範な裁量権が認められており,彼らは自らの知識と技術に基づいて自律的に行動することが期待されている.こうした専門職のへの着目は,市場の論理や官僚制とは異なる社会のあり方を説明するポイントだった.

4.専門職複合体


[参考]
中川輝彦・黒田浩一郎編,2010,『よくわかる医療社会学ミネルヴァ書房

よくわかる医療社会学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

よくわかる医療社会学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

The Penguin Dictionary of Sociology: Fifth Edition (Dictionary, Penguin)

The Penguin Dictionary of Sociology: Fifth Edition (Dictionary, Penguin)