M・フーコー『知の考古学』 Ⅳ-Ⅰ 考古学と思想史
<書誌情報>
Michel Foucault, 1969, L'Archéologie du savoir, Paris: Gallimard.
(=2012,慎改康之訳,『知の考古学』河出書房新社.
- 作者: ミシェル・フーコー,慎改康之
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2012/09/05
- メディア: 文庫
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Ⅱ 言説の規則性
Ⅰ 言説の統一性
Ⅱ 言説形成
Ⅲ 対象の形成
Ⅳ 言表様態の形成
Ⅴ 概念の形成
Ⅵ 戦略の形成
Ⅶ 注記と帰結
Ⅲ 言表とアルシーブ
Ⅰ 言表を定義すること
Ⅱ 言表機能
Ⅲ 言表の記述
Ⅳ 稀少性、外在性、累積
Ⅴ 歴史的アプリオリとアルシーブ
Ⅳ 考古学的記述
Ⅰ 考古学と思想史 ⇦いまここ!
Ⅱ 独創的なものと規則的なもの
Ⅲ 矛盾
Ⅳ 比較にもとづく事実
Ⅴ 変化と変換
Ⅵ 科学と知
Ⅴ 結論
訳注
訳者解説
人名索引
事項索引
Ⅰ 考古学と思想史: 255-265
1.本節の課題
「考古学」は,他の記述が与えることのできないようないかなるものを提供しうるのだろうか.かくも重々しい企てには,いったいどのような報いがあるのだろうか.(256)
2.他の記述との比較
〇思想史
とはいえ思想史には,二つの役割を認めることができるように思われる.
一方において,思想史が語るのは,末節と余白の歴史である.(258)
数々の大いなる言説的モニュメントの隙間に,思想史は,それらのモニュメントが依って立つ脆い地盤を出現させるのである.それは,浮動する諸々の言語,形のない諸々の作品,つながりのない諸々のテーマを扱う研究分野である.それは、知よりもむしろ諸々の意見を,真理よりもむしろ諸々の誤謬を,思考の諸形式ではなく心性の諸々のタイプを分析するものなのだ.(259)
しかし他方において,思想史は,既存の研究分野を横断し,それを取り扱い,それを再解釈するという任務を持つ.このとき思想史が構成するのは,1つの周縁的領域というよりもむしろ,1つの分析スタイル,1つの眺望である.(中略)すなわち,どのようにして諸々のテーマが結びつきを失い,互いに他から切り離されて存続し,廃れてしまったり,あるいは新たな様式のもとで組み立て直されたりするのかが示されるということだ.思想史はこのとき,始まりと終わりに関する研究分野であり,漠とした連続性と回帰に関する記述であり,歴史の線的形状における諸々の発達の再構成である.しかし,まさにそれゆえに,思想史は,1つの領域から別の領域への交換や仲介の作用の全体を記述することもできる.(中略)思想史は,諸々の作品を,制度,社会的な習慣や行動様式,技術,必要,無言の実践などと関係づける.思想史は,言説の最もみごとに練り上げられた形態を,具体的な風景の中で,それらの誕生の舞台であった発展と発達の場において蘇らせようと試みるのである.(259-260)
すなわち,そのもっとも一般的な形態において,思想史は,絶えず,哲学ならざるものから哲学へ,非科学性から科学へ,文学ならざるものから作品そのものへの移行を――その移行が実現されるあらゆる方向に関して――記述するものである,と.
〇思想史と考古学の4つの差異
その四つとはすなわち,新しさの指定に関する差異,矛盾の分析に関する差異,比較にもとづく記述に関する差異,変換の標定に関する差異である.(261-262)
①
・考古学が明らかにしようとしているのは,諸言説の中に隠されていたり表明されていたりする志向や表象のイメージやテーマや強迫観念ではなく,諸言説そのものであり,諸規則に従う実践としての諸言説そのものである.(262)
・そうではなくて,考古学は,それに固有のヴォリュームにおける言説,モニュメントとしての言説に対して,自らを差し向けるのである.それは,解釈的な研究分野ではない.(262)
②
考古学の問題,それは逆に,諸言説をその種別性において明らかに示すことであり,諸言説によって実現される諸規則の作用が,他のいかなる作用にも還元不可能であるのはどうしてなのかを示すことであり,諸言説をその外的な境界線に沿ってたどることで諸言説をよりよく際立たせようとすることである.(中略)考古学は,言説の諸様態の差異をめぐる分析なのである.
③
・考古学は作品という至上の形象に従って秩序づけられているのではない.
・考古学は諸々の個別的作品を貫く言説実践,すなわち,それらの作品を全面的に制御して残らず支配することもあれば,その一部しか規制しないこともある言説実践に関して,その諸々のタイプおよび諸規則を定めるものである.1つの作品の存在理由でありその統一性の原理であるようなものとしての創造的主体という審級は,考古学にとって無縁のものなのだ.(263-264)
④
別の言い方をするなら,考古学は,語られたことの同一性そのものに立ち戻りつつ,その語られたことを反復しようと試みるのではない.
つまりそれは,維持された外在性の形態において,すでに書かれたことを規則的なやり方で変換するものであるということだ.
そうではなくて,それは,対象としての言説のシステマティックな記述なのである.(264-265)