幸福なポジティヴィスト

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A・プラトカニス,E・アロンソン,1998,『プロパガンダ』第2章

<書誌情報>
A・プラトカニス,E・アロンソン,社会行動研究会訳,1998,『プロパガンダ――広告・政治宣伝のからくりを見抜く』誠信書房

プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く

プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く

第2章 説得のお膳立て――効果的な説得を行うために:49-94

1.広告
ダリル・ベムのテレビコマーシャルの単語やスローガンについての研究.
・鎮痛剤のアスピリンは,「純度100%」「強力・即時性(素早い効き目)」「多くの医師推奨」「胃にやさしい」といった言葉で売られているが,実際には言葉のトリックや程度の差ぐらいの違いでしかない.知名度の低いものの何倍もの価格で売られているにもかかわらず,みんなそうした商品を買ってしまう.

・広告のもつ力とは何なのだろうか?
では,言葉はどのようにしてその力,すなわち人々に影響を与え説得する力を獲得するのだろうか.簡単に言えば,対象がどのように記述されるのか,一連の行為がどのように提示されるかによって,われわれの思考や,コミュニケーションに関する認知的反応が方向づけられる.

心理学者のゴードン・オルポートは,言語の本質は,毎日間断なく入ってくる多量の情報を分類し,カテゴライズすることであると指摘している.(54)
→認知的な視座.世界の切り取り方.複雑なものを理解するフレーム,二項対立.
⇔「自己成就的予言」といわれる現象がある.「ある状況を定義することが,その定義を現実のものとするような行動を引き起こすことを意味する」.賢いと言われた子どもは賢くなる.ラベルの説得力は,「名前」が「実体」を生みだすことがある.

言葉は現実を覆い隠したり,偽造するために使われる.一方でまた,言葉は現実を作り出す方向で使われることもある.

2.頭の中の物語
頭の中に思い描くフィクションは,われわれ自身の行為や思考にどの程度影響を及ぼすのだろうか.

ジョージ・ガーブナーの分析では,テレビで描く世界が現実とはかけ離れていること,そしてそうした世界を現実の反映として受け取っていたことが明らかにされている.テレビの視聴時間が長ければ長いほど,現実とは異なる形で世界を認識している.
Fact Fullnessも似たような状況であった気がする.こうした頭の中の物語が現実を意図しない形で捻じ曲げて理解している.
※相関関係であって因果関係ではないことに注意.

犯罪や暴力など,直接体験する機会がほとんどない問題の場合には,テレビなどのマスメディは,われわれが世の中をイメージするときの唯一のいきいきした情報源となるのである.(63)

「何を考えるべきか」を人々に伝えるのに成功しているとはいいがたいが,「何について考えるべきか」を伝えることには大きな成功を収めている.(バーナード・コーエン)アジェンダ・セッティング.議題設定機能

3.質問方法によって変わる回答
カーネマンとトヴェルスキは,人びとが損失を嫌い,それを避けようとする点に注目している.2000円を得ることによる喜びよりも,2000円を失うことの苦痛の方が重要なのである.また乳がん検診の結果では,否定的な結果を強調して自己検査を進められた女性たちは,ほかの軍の女性よりも実際に事故検査を多く行っていることが明らかにされた.生死にかかわるような状況でもどのように訴えるかで変わってくる.
⇒「何かを失う」ものとして問題が定義された場合のほうが,何かを獲得するという側面から定義されたときよりも説得的なのである.したがって,質問すること自体が,説得を成功に導くための巧妙なお膳立ての方法となりえる.(74)

誘導尋問は事実の判断に影響するだけではなく,起こったことについての記憶にも影響する.

4.対比効果とおとり
選択肢におとりをしのばせることで,おとりとの対比でほかの選択肢を「よりいいもの」,「よりわるいもの」と思わせることが可能である.
おとりから得られる教訓は,「文脈」が重要であるということ.なぜなら判断は相対的なものであり,対象や選択肢は,文脈次第で良くも悪くもなるのである.

5.デマ,事実もどき
選挙の中傷キャンペーンについての分析では,候補者が不適切な活動と結びついていることを単に示唆するだけでも,候補者の公的なイメージが大きなダメージを受けることを示している.否定的内容の政治宣伝や中傷キャンペーンの類は,やっただけの効果が得られることが多いのである.

裁判では,裁判以前に知れ渡った否定的な事柄,例えば自白したという報道,嘘発見器のテスト結果,被告のそれまでの犯罪歴,このケースの詳細など,裁判においては証拠として認められない情報が,陪審員の意思決定に重大な影響を及ぼすという結果を得ている.(86)

なぜ,デマ・事実もどきはこのように説得力を持つのか.
①事実もどきが真実か否かを確かめる試みがほとんど行われないことである.また真実か否かを確かめる材料がその情報にはほとんどない.
②いくつかの心理的欲求を満たしてくれるので,われわれはそれを受け入れてしまう.多くのデマは面白く,注意を引き付ける.また根源的な懸念や関心を合理化し,正当化するのを助けてくれる.そしてデマはその広がりとともに,われわれの心理的欲求を満足させる方向に「修正され,精緻化される」.
③社会的リアリティを作り出す.世界を理解する方向性を示してくる.

6.デマへの対処
強力な伝染力を持つデマにどう対応したらいいのか.
歴史的視座
第二次大戦のアメリカのうわさ統制所,法廷における証拠主義・・・

もっともよいアプローチは,それがデマになる前のつぼみ段階で摘み取ること.
そして,われわれじしんがデマや誇大な広告に対して証拠の開示を請求し,立ち向かうということ.

[参考]
ロバート・B・チャルディーニ,社会行動研究会,1991,『影響力の武器——なぜ、人は動かされるのか』誠信書房

影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか