幸福なポジティヴィスト

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津田正太郎「第4講 戦争プロパガンダにメディアはどのように関わってきたのか」『メディアは社会を変えるのか』

<書誌情報>
津田正太郎,2018,「第4講 戦争プロパガンダにメディアはどのように関わってきたのか」『メディアは社会を変えるのか——メディア社会論入門』世界思想社,32-42.

メディアは社会を変えるのか―メディア社会論入門

メディアは社会を変えるのか―メディア社会論入門

1.プロパガンダとマス・コミュニケーション研究
・総力戦のなかで人々を動員するためには,「効果的な説得」が重要である.プロパガンダもマス・コミュニケーション研究もこの説得の効果を重視するという点で,戦争と密接な関係をもっている.

プロパガンダ万能説は陰謀論に陥っている.プロパガンダはあらゆる要素のうちの1つに過ぎない.

・戦争の目的,敵の表象に最も端的に表れる.
Ex )目的の正当化,敵への憎悪の喚起,敵側を混乱させるための虚報(第三者効果).

2.プロパガンダとジャーナリズム
・メディア統制
Ex )ベトナム反戦運動の高まりは,メディアが戦争の悲惨さを伝えたからだという認識から,軍部は戦争時にジャーナリストらの自由な取材活動を制限するようになった.しかし,ベトナム戦争に関しては,メディア報道による世論形成ではなく,世論の反映としてのメディア報道であったことが指摘されている.

湾岸戦争ではプール取材方式が採用され,軍が情報を独占し,ピンポイント爆撃が繰り返し報道された.しかし,全ミサイルのうち7%が誘導式で,投下された爆弾の70%がたーふぇっとを外していたことは,あまり知られていない.いや有名か?

・メディア誘導
湾岸戦争の情報統制が問題となり,イラク戦争ではエンベデッド方式が採用された.記者が部隊と行動を共にすることで,現場を見ることはできたが,仲間意識により客観性が損なわれていることが指摘されている.

情報を統制する政府と軍VS抵抗し,「真実」を伝えるジャーナリストという構図は正しいのか?プロパガンダとジャーナリズムはちがうと言えるのだろうか.また,メディアにとって戦争はビジネスチャンスでもあり,戦争誘導に積極的に加担している可能性は十分にあり得る.また上からの統制ではなく,下からの監視による報道の画一化,自主規制も問題となる.日本軍によるあからさま統制が強調される一方で,GHQによる水面下の統制については過小評価されている(佐藤 2006: 95-6).

3.議論すべき点
・総力戦とプロパガンダ
→総力戦は,国内の大衆動員,敵対国の戦意低下や他国の協力をえるために,積極的な情報宣伝を展開した.心理や思想を標的とした四次元空間に広がった.この文脈でいえばジャーナリズムは異なる手段で行われる戦争となる.したがって,プロパガンダとジャーナリズムは二項対立で論じられないのではないか?

・日常世界とプロパガンダ
→戦争とプロパガンダというくくりは非常に了解できるのだが,戦時限定のプロパガンダというのは非常に狭い.コミュニケーションという言葉が持つ知的,日常的,楽しさ,といったきれいなイメージのなかにはプロパガンダという言葉が持つダーティ,デマ,反知識も含まれていなければならないのではないか?現代は戦争ではなく,日常生活に拡大するプロパガンダに目を向ける必要がある.それは差別や格差,暴力,偏見といった今日的な問題と結びついている.

[参考]
佐藤卓己,2006,『メディア社会——現代を読み解く視点』岩波書店

メディア社会―現代を読み解く視点 (岩波新書)

メディア社会―現代を読み解く視点 (岩波新書)