幸福なポジティヴィスト

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津田正太郎「第15講 社会問題とメディアはいかに関わるのか」『メディアは社会を変えるのか』

<書誌情報>
津田正太郎,2016,「第15講 社会問題とメディアはいかに関わるのか」『メディアは社会を変えるのか——メディア社会論入門』世界思想社,158-168.

メディアは社会を変えるのか―メディア社会論入門

メディアは社会を変えるのか―メディア社会論入門


1.社会問題を分析する枠組み
〇社会問題とは何か
・ある現象(出来事・客観的事実)が社会の中で問題として位置付けられることによって,はじめて社会問題として立ち現れてくる.
→事実の有無を問うのではなく,様々な出来事のなかで何が問題として社会的に定義されるのかが問題となる.

〇社会問題とメディア
・メディアが社会問題に及ぼす影響に注目するアプローチ
→メディア報道それ自体が社会問題の一部として組み込まれ,分析の対象となる.
⇒①社会病理学的(Social Pathology)アプローチ.
・社会問題に対する人々の関心をメディアが作り出す過程を分析しようとするアプローチ
→社会的に定義されるプロセスを分析する.
→②モラルパニック論,③社会構築主義

2.社会問題の社会病理学的アプローチ
・社会の水準での「正常」と「病理」.ノーマライゼーション(Normalization).病理をもたらす原因を特定し,除去することで正常な状態に戻す.
Ex) 犯罪社会学:社会のルールや価値観を身に着け,行動することを「社会化」というが,それが十分に行われなかった結果として犯罪が行われてしまう.
子どもが万引きをするのは,人のモノを取ってはいけない,またはお金を払って購入しないといけないというルールを知らないからだ.
少子化の病理は,正常な状態を子どもは生まなければならないという価値観が失われ,パートナーとの生活を充実させようとする価値観によって生み出されている.こうして特定された原因をもつ人々を,逸脱者として除去することで,「正常」な社会に復帰できる.

・文化的目標と現実とのズレによって引き起こされる犯罪.
→遊ぶ金欲しさの強盗,詐欺,売春などの犯罪.または具体的な怒りの矛先が見えず,だれでもいいから殺したかったという無差別殺人や通り魔.
→ここでの「病理」は現実とはかけ離れた欲望を喚起するイメージがメディアによって流布する状態や,同じ目標に向かうなかで脱落した者たちのこと.

3.社会問題のモラルパニック論的アプローチ
・ラベリング理論
→ベッカー,1963,『アウトサイダーズ』のラベリング理論:「社会集団はこれを犯せば逸脱となるような規則をもうけ,それを特定の人びとに適用し,彼らにアウトサイダーのレッテルを貼ることによって逸脱を生みだすのである.」(Becker, 1963=1978: 17).
→レッテルを貼られた人々が,そのレッテルを引き受け,周囲からの予想通りの行動をすることで本当の逸脱者を産出し,あるいは増幅する.逸脱は個人的な心理状態や生物学的な遺伝で説明することはできない.社会統制する側とされる側との相互作用のプロセスが重要だ.
⇒状況の定義づけ(definition of the situation)の視点.

・モラルパニック論
ラベリング理論の「状況の定義づけ」の視座を取り込む.「ある状態,出来事,個人,あるいは個々人の集団が,社会的な価値や利益にとっての脅威として定義されるようになる」ことで発生するパニックであり,これらをマス・メディアが特徴づけ,それをステレオタイプ化して表象することで生じる(Cohen 2002: 1).
→様々な社会問題を過剰に危機的に取り上げるマス・メディア報道が批判の対象となる.
⇒モラルパニック論の前提は,問題の客観的状況と人々に共有された現実認識の間に生じる乖離を「不均衡性(Disproportionality)」である.

・不均衡性の問題点
→問題が現にあることから目をそらしてしまう口実になるのではないか?大衆とそれを啓蒙するエリートという前提.それを論じる人の政治的立場が反映されやすい.

4 社会問題と社会構築主義のアプローチ
・社会問題にかかわる人々の諸活動を記述する.
→発話の背後に語る主体の意図,非意図的な語りの中で主体の意に反して明らかになった無意識の作用を見出すということをしない.

ウルリッヒ・ベックのリスク社会論と社会構築主義
→人々は予測困難なリスクに取り囲まれて暮らしている.不確実性の時間的空間的な広がり.情報に触れることでしかそのリスクを認識できず,その点でメディアの情報は現実を構成する.
⇒現実の判断を棚上げして分析できる.
⇔無責任な態度?

[参考]
山口仁,2009,「ダイオキシン問題とマス・メディア報道――「不確実性」下における社会問題の構築過程に関する一考察」『マス・コミュニケーション研究』74: 76-93.
chanomasaki.hatenablog.com
Howard S. Becker, 1973, Outsiders: Studies in the Sociology of Ceviance, New York: The Free Press.(=2011,村上直之訳,『完訳 アウトサイダーズ――ラベリング理論再考』現代人文社.)

完訳 アウトサイダーズ:ラベリング理論再考

完訳 アウトサイダーズ:ラベリング理論再考

鈴木宗徳,2015,「序章 ベック理論とゼロ年代の社会変動」『個人化するリスク社会――ベック理論と現代日本勁草書房
個人化するリスクと社会: ベック理論と現代日本

個人化するリスクと社会: ベック理論と現代日本