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藤田久一『戦争犯罪とは何か』

<書誌>
藤田久一,1995,『戦争犯罪とは何か』岩波書店

戦争犯罪とは何か (岩波新書)

戦争犯罪とは何か (岩波新書)

目次
はじめに
Ⅰ 戦争法の成立と展開
Ⅱ 新たな戦争犯罪間の模索
Ⅲ 国際軍事裁判で裁かれたもの
Ⅳ 定式化への努力
Ⅴ 個人責任をめぐる議論
Ⅵ 国際刑事裁判所
終章 残された課題
あとがき


1.はじめに
・今日戦争に伴う残虐行為は、戦争犯罪と言われる。しかし、戦争に伴う残虐行為を意識的に戦争犯罪として処罰する考えは最近練り上げられてきたものだ。戦争犯罪の問題は戦争観の展開とともに発展しており、両者は密接な関係にある。
・二つの大戦を経て大きく転換した戦争犯罪論、戦後の植民地解放戦争とポスト冷戦後の地域紛争も踏まえて、新たな展開を見せる戦争犯罪論を、国際法の観点を交えながら概観する。

2.戦争犯罪の前提
・「戦争犯罪」という観念は、「戦争」や戦争行為の法的位置づけと「犯罪」化の意識的行動を前提として成立するものである。つまり、戦争が違法であるということ、または戦争のルールが存在し、そのルールに違反するということを前提としている。(2)

3.戦争犯罪の残された課題
戦争犯罪の結果受けた被害に対する法的補償の問題である。
→戦争中の合法行為による被害は、一般に被害を受けたものや国が「受忍すべきもの」であって、加害者や加害国の法的責任は問われない。しかし、それは戦争の性格の変化とともに問い直されるべきものではないか。戦争だとあきらめて受忍させるのではなく、違法な戦争を開始したこと責任のほか、戦争法ないし人道法上の違法行為に基づいて生じた被害については、加害者側に何らかの補償責任があるはず。
⇔損害賠償は平和条約において、戦敗国に対して認められ、かつ、その賠償額の算定も包括的な形で一括処理される。そこでの問題は、賠償はすべての「国」に対してなされるべきこととされている点である。ここに戦争中実際に損害を受けた被害者たる「個人」は直接対象にされていない。戦勝国が得た賠償を被害者個人に分配するかどうかは、その国の政策による国内問題と見なされている。これは国家間社会としての国際社会の構造に基づき、賠償責任原則も国家間の違法な敵対行為から生じた損害の賠償責任を定めているのであり、国家間の平和条約で処理する以上、国家の権利義務として規定されるのは当然とも考えられる。そして、法的にこの構造に風穴を開けることは容易ではない!
⇒従来の国際社会の法構造に無批判に依拠し、現実を無視することにならないか?被害者個人が加害国に違法な戦争行為に基づく被害に対する補償を求める国際権利をどのように認めるのか。その理論的努力はなされているのか?(220-221)