幸福なポジティヴィスト

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昭和20年から30年の山口県議会史——日韓漁業協定に関して

<書誌情報>
山口県議会史』


山口県議会史

昭和三〇年の県議会

○二月臨時会 八三〇頁から八三二頁
①井川議員の質問
 ついでに沿岸漁民の問題をもう一点触れておきたい。今度の予算を見ると水産漁業協同組合指導に要する経費というのが七十一万八千円ある。これらは昭和三十年度において、三面海に囲まれた百数十の漁業組合を要する沿岸漁業に突つこまれる金である。そこで沿岸漁業の実態は近時新聞、統計などによると、増産がなされているという。しかし、漁獲の増産というのは機械の近代化、操業技術の改良、船の大型化などによって生まれてきた結果であって、その結果は大量貧乏という言葉で呼ばなければならないのである漁獲の数字が上がることによって漁民の経済が向上しつつあることにはならない。魚はたくさん取れても値段が安いからである。ことに沿岸の小さい零細漁民は直接影響を受ける。七十一万八千円の強度組合の指導費に対して、水産部長はいかなる名案をもってこの沿岸漁業の振興、協同組合の育成、強化を図られるか。なおまた水産業の協同組合、あるいはまた沿岸漁業の一元的な対策として沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へという標語によって沿岸漁業の振興策というものが表現されている。ところが現実的には少なくも一歩も二歩も出てないどころか、だんだんと退歩して行くような状態さえある。それに加えていま申し上げたような圧力としわ寄せが沿岸漁民の上に降りかかりつつある。これらの状態の中からどうして沿岸漁業の振興を図られるか、この基本的考え方についてお伺いしたい。

小澤知事の答弁
 猶沿岸漁業の問題については、本件の特に悩みとして折る問題であって、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へというスローガンのもとに一連の方策をあげているが、当面の問題としては、それのみでは実際の効果をただちに期待することはできないのである。事に瀬戸内海の沿岸などについては、魚族の積極的な保護、積極的な増殖というようなことを考えなければならないのであって、たとえば漁礁を積極的に設置するとか、あるいは稚魚の乱獲などを防止するために取り締まりを徹底させるというふうな一連の措置を講じていきたい。また日本海沿岸の漁業については、昨年来とりたった沿岸漁民が沖合に出るという方策をとっている。若干の漁業許可権を拡張してやっていたのであるが、これまた今度は指導を今少し適切にして、他人のふんどしで仕事をするような根性でなしに、沿岸漁民みずから自分の責任と自分の利益においてこれを行うという体制に持っていくという考えを一そう進めてまいりたい。

昭和二十九年度の県議会
○十二月定例会 七九七頁から七九八頁
②小澤知事
 終戦後県下の漁業は沿岸たると沖合たると問わず、その漁場はますます狭隘化して非能率的漁法の悪循環と相まち、漁業経済は極度に不振窮迫の度を加えていることはご承知のとおりである。かかる状態を解消して打開いたすためには、かねて水産行政の基本的指導理念としているところの沿岸から沖合へ、沖合から遠洋への転換施策を強力に推進していることが極めて緊要であると存ずるものである。
かかる見地からして、県並びに沿岸漁業社をはじめとする水産業者の協力体制を基調とする漁業技術、漁業経営ならびに経済援助、および中核的指導育成機関を創設することが最も適切なる措置と認めて、かねて漁業公社の設立を企図して、過般一応の発足を見るにいたった次第である。この公社は県の重要なる水産施設の一環を実現するものとして、公共性に立脚することが適当と考えられるのであって、公社みずからも独立採算制の上に立ち、その余力をもって沿岸漁業の育成発展に寄与し得るように、十分その機能を発揮せしめることが重要なる目途であって、その目的を達成いたすためには、当面公社自体の基盤の安定性を確立することが緊要であるので、まず遠洋かつお、まぐろ漁業への進出を図ることとしているのである。指向して、将来にわたって途上の県の基本的方針を、この公社を通じて具現していく必要があるので、県としてもこれに対して出資を行わんとする者であり、当面の経営に遺憾な気を帰するため若干の指導経費をあわせ、五百十五万円を計上した次第である。なおこれが財源には前年度繰越金を充当しており、なにとぞ慎重審議の上、適当なる御議決あらんことをお願いする。


○十一月定例会
③井川議員
 山口県には全県下津々浦々に船溜まり、漁港その他の漁業根拠地があって非常に多くの密入者が入るに易い、出るに易い状態にある。しかるに現在において動かし得る船はわずか三隻しかない。また派出所も下関を合わせて全部で五か所しかなく、所員の数は五十数人にしか過ぎないのである。これだけの機動力と陣と拠点をもって、広島県を境として瀬戸内海側から島根県を境とする外界、さらに福岡県の玄界灘、対韓国関係についての広範な海面を取り締まりの区域にしているのである。少なくとも犯人を逮捕せんとすれば、犯人の船より早い船でなければならない。スピードを保つ最優秀線を、少なくとも五隻程度は建造しなければ山口県海上犯罪の治安は保たれない。それから海上犯罪の特殊性からして、下関市に派出所を移すことはもちろんであるが、その他宇部、徳山、岩国、柳井、防府、安上庄、萩くらいには水上警察の拠点がないと、山口県の内海、外界を通じて治安の確保はできないのである。早急に水上警備力の増強を図ってもらいたい。これについての知事の御答弁を願いたい。
 御承知のように水産庁においては、昭和三十年度の動力漁船の建造計画を最近発表された。これは毎年発表されているのであるが、特に三十年度計画を数字的に申し上げると、トロール船三隻、以西底引鋼船三十二隻、木船六十三隻、かつお・まぐろ鋼船九十四隻、木船二百七十二隻、中型底引木船、百十五隻、小型底引き漁船、木船三百四十二隻、その他鋼船三隻、木船四千五百二十隻で、この資金的な裏付けは漁船建造のための農林漁業金融公庫を通じて出される金が、五十億円、年々これくらいな漁船が新たに建造されつつあるわけである。


小澤知事
 昨年年末に李承晩ライン、中共のだ捕船の関係から水産業者の困窮しておる実情にかんがみ、年末にこれの救済融資をしたのである。それが十分に回収できぬために、損失の補償をいたさなければならぬ状態にいったことは誠に遺憾千万である。この融資をうけた組合および組合員が、相当困窮した状態にあることは事実であるが、融資はあくまでも融資であって、返還していただくことが建前である。私はあくまでも融資を損失補償するがこれの回収をして県民への損失のないように努力いたすつもりである。従来においても、いろいろの事情を勘案して漁獲したものの販売代金のうちから積立てを行わせるというふうな方法をとって、極力これの回収をしてまいったわけである。これについては、さらに毅然たる態度をもって融資を受けられ方々に対しては協力を願おうと考えている。

沖議員
 先ほど同僚議員から質問のあった漁業年末融資に関連して質問したい。
 知事の議案説明に、「本年分は約五千二百万円の損失が生ずることから明らかになったので……」とあるが、この表現は先ほどの知事の説明と非常に相違する。なぜならば保証の契約によって銀行が損失を生ずるということは、ある一定の期限内に終わらない場合に始めて補償が可能となるのである。しかしそれは県の損失になるということではなく、県は求償権を行使しなければならぬのである。ところがこういう説明を知事がする場合に、ともすれば苦しい業者はこれをいいことにして、もう県は損として諦めたんだ、払わなくてもいいんだという気持ちになりかねない。これはぜひ訂正願いたい。
 それから少なくとも補償するのであるが、これは短期年末の融資として三か月間の融資であったはずである。然るにそれを延ばし延ばして今日までもってなおかつ返らない。それで県がこの苦しい財源から銀行に金を払う、しかもそれは特定の業者のためである。こうした場合には私は少し知事にとってもらいたい手段がある。すなわち山口県水産業緊急対策融資保証要綱の第八項に「融資期間が融資しようと得る場合は、回収に十分なる担保または保証人の設定を行わせるものとする」とある。私は金融機関が担保あるいは保証人に対する追及をやったかどうかということを伺いたい。
 次にこの融資の内容を見るに、山口銀行関係を経由して貸した順洋水産株式会社、三洋水産株式会社、田島水産株式会社、高松三平この四業者は完全に完済している。しかるに他の業者は、なかには一銭も払っていないのがある。利子すら払っておらぬ。同じ業者でこのようなことがありうるとは考えられぬ。金を借りたものか払う気持ちを持った場合と、なるべく引き延ばそう、あるいは払わないという気持ちを持った場合にこういう結果が表れたのではなかろうか。最も越ヶ浜の漁業組合に貸した一千八十六万円については、去る七月定例県議会において、零細漁業で船の建造をやっているので、三十四年の十二月まで延期してほしいという陳情があったので、これは本議会に可決されている。しかるに他の下関の関係の組合の方は非常に成績が悪い。しかも農林中金を経由して貸したものが悪いのである。風評によれば、農林中金は業者に対してこれは三カ月で払わなくてもいいんだ、三年でいいんだということを言っておるのだということを聞く。はたしてその噂さが本当があるかどうか。知事の正直なところを聞きたい。
 仮にさようなことがあるならば、これは融資保障要綱の第十条によって禁止されておるところである。もしこれらのことを犯して、債権の回収に農林中金が不熱心であったとするならば、保障要綱免責条項によって県は補償する必要はないのである。はたして銀行がどの程度業者との摂政をやり、どの程度の努力をして回収に努めたか、これは保障要綱の第十六項によって県は調査権を持っている。はたして県はこの調査権を行使して農林中金を調べたのか、伺いたい。

小澤知事
先般日本赤十字社の行為によって、私は地方自治体の首長としてただひとり李徳全女史一行と、高輸の光輪閣において前後二時間にわたって文字どおり膝をまじえて話し合う機会を得たのである。以下質問の二点について報告しておきたい。(中略)
 漁業関係であるが、私は意図していたのは中京に拿捕された船舶並びに乗組員について、人道的な措置を要望したいということであったが、ちょうど面会したその日の朝刊に、中共でだ捕された漁業者が日本に向かって帰ってきつつあるということが報道されていたのである。これについては謝意を述べたが、大部分の漁船はまだ帰ってきていないという状況である。したがってこの漁船は零細な企業家の所有物であって、これがないと生活に困るという状態であるから、人道上の立場から漁船を返してほしい。さらに中国と日本との漁業の相互扶助的ないき方を考える必要はないか。中共が自由になる漁労を許せば、場合によっては先方の希望によって漁船と漁獲を提供する。水揚げは大陸において、日本においてはチャーター料等を支払うだけにする。漁業の面において操業に協力するというふうなことを申したが、これに対しては同感の意を表していた。再び年内に日本から漁業者代表を向こうに招へいすることになっているので、この問題はおそらくその会議で全面的に解決するのではないかと申していた。

総務委員会
 昨年末、漁業年末貸付金として県が補償し、これが未回収のため、県の損失補償金二千九百四十三万の予算があったのである。水産部長の説明を求めたところ、昨年末の漁業者に対する貸付金を計画したのは、韓国と中京の漁船拿捕を契機として出た問題で、国家的に見て国が災害を受けたのと同様と考えるので、国の立法措置を期待し、この融資は将来国に肩代わり可能という見通しのもとに執行したが、国が代船建造資金のみにとどまり、当初の見通しとは食い違ったとの説明があり、これに対して委員会は、水産部長が確実なる立法をもたず希望的観測のもと措置したことについて、誠に遺憾であるとの意を表明したのである。これが年末貸付金の状況ついて資料の提出を求め内容を検討した結果、信漁連貸出しの萩越ヶ浜の漁業協同組合の一千八十六万円については、さる七月県議会においてこれが償還の猶予方の陳情が提出され、議会はこれを採択しているので、これが未収関係はあらかじめ了としておったのであるが、農林中金貸出しの下関底引綱漁業協同組合の三千九百七十万円について回収は、わずかに四百三十一万余円にして残額三千五百四十八万余円である。山口銀行貸出しの一千七百三十万円に対する回収は、一千百三十万円にして残金六百万円であった、これも十分な回収とはいわないが、ほかの農林中金、信漁連などと比較すれば、山口銀行関係においてはこれらの回収に努力され、一面業者のこれは対する誠意がうかがわれた。一方、農林中金関係においては、元金はもちろん利子すら一戦も支払われない業者が数社あり、その回収成績は目下のところはなはだしく不良であって、業者自身に償還の熱意があるとは認めがたいと断ぜざるを得なかったのは誠に遺憾である。県は取立交渉において、未払い業者に対して利子免除する方針であるとのことであるが、かかる措置は県財政困窮のおりから県民の膏血をかかる杜撰な見通しに基づく計画によって、しかも一部特定業者を利するために消費するというのは、実に妥当を欠くとの全員一致の意見により、旧第一号議案第八尺産業経費第二項第三十一節水産業者、水産業緊急対策資金損失補償金二千九百四十三万円の削除の動議が提出され、委員会は本修正動議を議題として質疑応答、討論の結果、本補償は目下の回収成績および償還計画より見る時、その要綱による県の免責の可能性が考えられ、およびこれが補償いまだ契約期間の未到来という点より、今後の金融機関の回収獲得の努力によりこれが減少も考えられ、全員一致本修正案を可決したのである。


○二月臨時会
小澤知事
 次に水産関係においては、さきに支出した韓国に不法だ捕された船員の見舞金の追加として、今回国より百十二万四千円の交付があったので、これを予算化するとともに、漁業活動打開のため活動した漁業団体に対する補助金として百七十万円を追加し、目下設置中の漁業用萩無線局の活動をより効果的なものとするため、大島に自動中継局を設置するとともに、仙崎無線局との連絡をより能率化するため、萩・仙崎間に超短波無線電話を架設することとして、これに要する経費百万円、小型機船底引き網減船整理の促進を図るため今回指定の二十四隻分に対する補助金百五十七万円三千円、暖冬異変に原因するのりの養殖事業の被った被害が以外に甚大であるため、この救済補助金として五十万円および淡水魚放流事業に対する補助金二十万円、工場汚水問題発生に対処し、これが海水の基本的試験調査を行うこととして、これに要する経費として三十七万円などを濁加している。水産関係の公共事業については、国の事業費の削減に伴い一千百六十万円を更正した。

宮川議員
水産と工場汚水と暖冬異変による海苔の被害についてお尋ねしたい。戦後の砿工業の復活によって山口県も非常に発達を来しているがその排水によって沿岸の水産業に甚大なる被害を及ぼしていることは周知の事実である。
 先月も私どもは工場へ行ってみたが、工場側はこれで十分なる施設であるとはいっておらぬ。商工業の発達という大きい観点から考えるならば、この工場誘致のためには県としてあらゆる犠牲を払わなければならぬということも十分わきまえているが、一面水産業の被る多大な被害について、県はどういう処置をとるのか伺いたい。
 工場側は排水による被害に対する補償派はデーターが出なければしないと言っているので、なかなか難しい問題である。今度三十七万円程度内海試験場の内容充実に予算を組んでおられるが、この程度の金額ではなかなかできないと思う。漁民にとってはこの海岸は農民の耕地と同じである。昨年度、病虫害が発生した時期には県費を出してこれを助成しているではないか。ことにこの工場汚水の問題について、県は一体どう処置をしておられるのか知事に伺いたい。
小澤知事
 山口県の工業の発達に伴い、工場から排出される汚水によって沿岸漁民の生活の基盤が奪われるという重大な問題が起こっている。この問題は已に諸種の検討を加えてまいったのであるが、結局科学の領域においてこの問題を解決できるような的確なデーターは現在まで出来上っていないのである。したがって、科学的な検討を加えていくと同時に、状況の判断などの総合的な要素をとり入れて、ここに何らかの線を引いていくという努力をしている。これについては、漁民の方々の現実の被害の報告などを実地に調査する必要もある。そのような方法を講じて何とかこれを解決していくというのが私の念願でもある。また工場と漁民との間に立って、その間の事情を十分に聞いて解決の道にもっていくという仲介あっ旋の労をとってまいりたい。
 事位の暖冬異変のために、せっかくの則が腐ったということについて、その損害に対して若干の金額を補償したのである。しかし山口県のかつての名産であった海苔が技術的にも市場販路においても逐次衰微に立ち至ってる状況を、いかにして打開していくかということが今後の問題にある。この問題については将来十分考えていきたい。




昭和二十八年の県議会
○二月臨時会
田中知事
 水産関係については、現在下関に存ずる漁業無線施設は急速に改装を迫られている関係上、これに対し助成の必要を認め百万円計上することとした。また違反漁業に対する取締船建造費をさきに計上したが、その後検討した結果、さらに船体装備などを堅牢化する必要が認められるので千二百万円を追加した次第である。さきに政府は乱獲漁業の調整措置として、小型底曳網漁船の整理を行う方針を決定実施することとなったのであるが、このため漁民の被る損失については、できるだけこれを軽減する必要を認められるので五百八十七万七千円を計上し、漁業者の安定を図らんとする。

○九月臨時会
 以上の知事の説明を終了。ついで井川議員から朝鮮水域の非常事態に対する決議案が次のごとく提出された。
朝鮮水域の非常事態に対する決議案
 李承晩韓国大統領は昨年一月十九日突如として「海洋主権宣言線」を宣布し、日本漁船の同ライン内への立ち入りを禁止する方針を明らかにし、その以後しばしば日本漁船への攻撃と捕獲を繰り返し、また乗組員を射殺するなどの不法なる行動をなしてきた。
 今一つ朝鮮水域にはこれとは関係泣く国連軍の防衛水域封鎖船の設定があり、「朝鮮水域における攻撃を防止し、国連軍の交通線を確保し、密輸あるいは共産側スパイの韓国への侵入を防止」することを目的とされていたが、このラインは朝鮮の休戦協定と共に先月実施が停止された。
 われわれは漁業者とともに韓国並びに国連軍においてなされたこれらの措置がその実施に際しては必ずや国際法の原則と慣例に基づいて施行される事を確信しつつ、韓国官憲によるたび重なる日本漁船に対する迫害にもかかわらず、事態の平静化を期待しながら隠忍自重の態度を持してきたものである。
 然るに韓国は次から次へと宣言海域の取り締まり強化策の実力行使に移りつつあったが遂に韓国政府はさる本月七月二十四時を期し全日本漁船を李ライン外に退去させることの通告をなすに至り、武力行使を示唆する強硬手段によって日本漁船の生命財産の不安はこの上もない危険状態にたちいたった。
 かかる事態は国際法上全く前例をみない不法の措置であって、誠に遺憾にたえないところである。
 この海域における漁業ができないことは約一千八百隻の漁船と三万数千人の生業を奪い、約二十二万頓七十五億の漁獲を失うことになるのであって、関係漁業者にとって死活の重大問題であるばかりでなく、国民の食糧事情に対してもさらにまた本県唯一の産業である水産業の壊滅的損害となり、これが県財政に及ぼす影響は極めて多大であり、事態の早急解決の成否は本県議会としても最も重大なる関心を有するものである。
 われわれは昨年の十一月二十五日の本県議会において韓国及び国連軍によってなされたこの二つの措置に対して日本漁業者とともに国際正義の確立を希望し、道義と良識の上に立って宣言したことをここに再確認する。それは公海がいずれの国の専権にも属せず従って特別の取り決めのない限りいずれの国の漁船もその目的が平和的である限り立ち入りも操業も自由であるべきことである。
 われわれは日韓両国がおかれている冷厳なる国際環境の情勢下にあってその共通の運命を考えるとき、韓国が日本の漁船を不法な手段をもって不平等に取扱い漁民の生命財産に危難を加え日本産業の発展と民生の安定を阻害するようなことは、その本意に非ざること深く確信するとともに日韓両国の善隣友好と平和を冀求し、この当面する重大事態が日韓両国政府の努力と平和と正義を愛好する世界の諸国の与論とあっ旋により即時解決せられんことを請願する。しかしながらもし韓国政府において善意と良識もって速かかなる事態の善処を図らず徒に事を構えてさらに不法なる行動をなすに及んでは日本国政府は直ちに適切なる自営の措置を講じ、漁場の安全を確保せらるるとともに不幸にして不法なる損害をこうむりたる漁船および乗組員に対する補償の措置を取られるようにここに山口県議会満場一致の決議をもって要望する。
右決議する。
  昭和二十八年九月九日
          山口県議会議長   二木 謙吾
 直ちに採決が行われ、全員一致をもって可決された。次に質問に入った。

○十月定例会
井川議員
 今次朝鮮水域の非常事態に対しては、先に満場の皆さん方の御賛同の下に、本会議としての決議を可決せられ、県当局においても、それぞれの事態の拾収方についての善処方を努力していただいている。しかし、現実は最悪の事態に突入している。すなわち、本県の漁業者で今日不法なる拿捕をせられ、韓国に抑留せられているものは漁船二十六、乗組員二百三十一人に及んでいる。この中には全く一家の中心を失い、家計の中心を失って家庭経済の上に実に気の毒にたえない家族が数あまたいることも十分ご承知のことと思う。日韓会談に期待するところも大きいのであるが、この会談の成り行きは必ずしも楽観を許さない。今次朝鮮水域におけるこれらの事件は、その一切の責任が韓国側にあるとわれわれは存じている。また業者に対する責任の所在の全部は、国家が負うべきものであると確信をする。財産の保障、人命の完全保障等すべての責任は日本国の名において、業者に対する責任が取られるべきものと考えるが、知事の見解を問いたい。私はこの際知事が山口県漁業者のこのように状態を見て、日本赤十字社等を通して、この抑留者の給与状態、あるいは人命の保護に対する調査を申し出る意思はないか聞きたい。また県自体がその気の毒な家庭の救済に対していかなるお考えをもって救済の道を取られるか。それも併せてお尋ねしたい。

小澤知事
 朝鮮水域における李承晩ラインの暴挙に対しては、私は皆様とともに憤りを感じ、また痛恨やるかたないものを覚えるのである。犠牲になられた方々に対しては、私はとりあえず予備金をもって見舞金を差し上げて、さらにその他の措置については、県、市当局とも相談して、生活の御苦労を何とかして救っていきたいと考えている。もとよりこのことは国家の責任において処置すべきものであるということは、井川議員と見解を同じくするものである。皆様がたとともどもに政府をべんたつして、早期にこの問題を解決することを強く希望している。特に本県と韓国は地理的にも歴史的も切っても切れない関係がある。この親善感を阻害する李承晩ラインの措置については、両民族の間において早期解決を要望したいと考えている。また拿捕されて御苦労なさっている方々に対する衣服の送付などのことについては、井川議員と同様に日本赤十字社を通じて早急に措置したい。

井川議員
 水産委員会を代表して緊急動議を提出したい。御承知のように日韓会談が決裂して、昨日は萩市において全県下の漁民総決起大会が行われまた明日は地元選出の国会議員参集の下に日韓漁業山口県対策本部と協議して来たるべき国会にこの問題に対する措置についての手続きを進めることにもなっておる関係上、この問題の緊要性にかんがみて、次のごとく決議を上程する次第である。
  日韓会談決裂に伴う李ライン水域問題の
  緊急措置に対する決議案
 李承晩韓国大統領は、昨年一月十九日突如として「海洋主権宣言線」を宣布し、日本漁船の同ライン内への立入りを禁止する方針を明らかにし、それ以後しばし日本漁船への抗撃と捕獲を繰り返し次から次へと宣言水域の取締強化策の実力行使に移りつつあったが、遂に韓国政府は去る九月七日の二十四時を期し全日本漁船をこのライン外に退去させることの通告をなすに至り、武力行使を示唆する強硬手段によって実際にはラインの内外に在るを問わず、又操業中と航行中の如何を問わず、国際法上全く前例を見ない不法拿捕を強行し、一方的な自国の裁判によって漁船、漁具、漁獲物を奪い乗組員には体刑を課するなどの暴挙をなし、既に政府の確認したるもの四十一隻の漁船と四百八十四名の乗組員の拿捕抑留を算するに至り被害のおよぶ所計り知れざるものあり、今や日本漁船および乗組員の生命財産の不安はこの上もない危険と恐怖の状態に立至った。
 われわれはこのことに関し、深い関心を有し、昨年十一月二十五日と去る本年九月九日の二回に亘り県議会満場一致の決議をもって日韓両国がおかれている冷厳なる国際情勢の下にあって両国民の上に宿命づけられた共通の運命に思いをいたし、日韓両国の善隣友好と平和を希求し、この当面する重大事態が両国政府の善意と良識の上に立っての努力と平和と正義を愛好する世界の諸国の世論と斡旋により速やかに解決されることを確信し再開せられし今次日韓会談の成果に全部の期待をかけて、これが成功を念願していたものである。然るにわれ等の期待は裏切られ十月二十一日をもって日韓会談決裂の方に接す。
 天運無情というべく何たる痛恨事であろう。事既に茲に至る、われらは会談決裂の責任がそのいずれの側のあるとも日本国の法律の保護を受ける日本国民に対しては一応日本国政府の責任において、その生命財産の安全が保証せられ、その損害に対する補償の措置が講ぜられるべきであると信じ、本県議会満場一致の決議をもって、次のことを日本国政府に陳情するとともに衆議院および参議院に請願する。
 一、捕獲されたる日本漁船と乗組員に対する、その損害の国家補償をなすと共に漁船の代船建造資金の優先的融資措置を講ずること。
 二、抑留された乗組員の対する生命の安全、待遇給与の改善と早期帰還に必要なる措置をとること。
 三、留守家族並びに遺族の生活援護に必要なる措置を講ずること。
四、今後における漁場の安全を確保し自己を末然に防止するために有効適切なる手段を速かに実施すること。
五、以上のことは事態の緊急渡重大性に鑑みすくなくとも災害等に対してなされると同等なるれ熱意と努力において緊急重要施策としてとり上げられ、地区開会される第十七回国会の会期中に必要なる措置を講ずること。
右決議する。
 昭和二十八年十月二十三日
        山口県議会議長  二木謙吾
      殿
 どうか事態の重要性にかんがみられて、満場一致をもって本決議案の御賛成をお願いしたい。
 直ちに採決の結果、決議案は満場一致で可決された。次に議長は日程を追加して議案第三十六号を上程し、知事の説明を求めた。

○十二月臨時会
小澤知事
なお、報告を一件提出しておるが、これはさきに韓国官憲により不法だ捕された本県漁船乗組員がこの程、送還されたので、国の方針に基づきこれが救済のため、見舞金四百三十二万六千円を全額国庫補助をもって計上したものであって、帰国当面の救済に遺憾なきを期するため専決処分したものである。ここに御報告申し上げる次第である。
 以上で、知事の説明を終わった。次に井川議員より李ライン問題に関する専決の決議の経過について報告が行われた。

井川議員
 朝鮮水域における非常事態が発生して以来、本県の水産業界を初めとする関連産業、ひいては、経済界全般に及ぼす影響が極めて深刻なるものがあるので、本議会として満場の御賛成の下に、この事態の収拾方、並びに善処方について力強い決議をしていただいたのであるが、水産委員一行はこの決議文の実現のために中央方面に運動を続けてきたのである。本日の議会にその経過の一端を御報告させていただきたい。国民的の御同情と力強い御支援によって、漸く抑留船員が無事帰還したことは、全く皆さま方の御協力の賜であると考えて漁民とともに喜びにたえないところである。本県関係においては萩関係百四十四名、下関関係八十七名、計二百三十一名の抑留船員が帰ってまいった。なお、いまだ未帰還者が後一隻二十五名残っておるわけであるが、この未帰還者をもなるべく早い期間に送還されることを念願しつつ、さらに力強い運動をしたいと考えるわけである。国として取られた措置は、抑留船員家族に対する法案が、何かの姿において出て来ることをわれわれは期待している。国会においても、各政党制覇を超越して、この問題に解決に力強い熱意をもって当たっておられることを思うとき、これらによって生じた損失保障などについての措置が講じられることを念願するものである。この問題の本質は単に漁業問題にあらず、日本の主権侵害に対する問題である。いま仮に漁民がこの漁場を放棄したならば、この李ライン水域が培われて行くというところに、我が日本として絶対服し得ないのである。漁民は断じてこの線を引かず、日本の主権の第一線に立ってその侵害を防止するために、このラインを守って強硬出漁いたしているのが現状である。竹島を奪われ、さらに壱岐対馬に対するこの脅威を考える時に、全くこの問題は日本の主権が保たれるかどうかの重大な問題であるわけである。この日韓両国の基本的な問題の解決に、漸くアメリカが積極的に乗り出してきた。我々はアメリカの仲裁によって、この国際法上類例を見ない不法なる李承晩宣言が一日も早く撤廃せられて、公海における漁場の安全が確保される日を念願している次第である。また、抑留船員家族、その他これらの運動を実現する県議会としては、その時々きわめて敏速的確なる措置を講じてまいりたい。このことについても関係漁民はもとより、これら抑留船員家族一体となって感謝の念を申し述べている次第である。はなはだ簡単であるが経過の一端を申し上げて御報告に代えたい。
 午後十二時十五分休懇
 午後二時再開
 再開後、議長は議案第八号を上程し、提出議案に対する知事の説明を求めた。

小澤知事
 李承晩ライン設置に伴う韓国の一方的強硬措置は、日本漁業にとって致命的打撃となり、特に、本県漁業に与えた被害は実に甚大である。これが打開の方途については、皆さま方の御協力の下に懸命の努力を続けてまいったのであるが、未解決のまま年末になったことは誠に遺憾とするものである。しかしながら、かかる状況は日時の推移に伴い水産関係者の経済的困窮を深刻化し、年末における経営収支の決済にも困却するという状態に立至って、このまま放置するならば金融機関よりの融資は止まり、生産資材の入手代金その他すべての資金にも事欠く結果となり、ますます生産の減少を招来することは明らかなことである。もちろんかかる国際的紛争に基づく諸案件の処理については、国においてその責を負うべきであって、本県としても金融対策をはじめ諸種の救済措置は、急速に政府に要請しているのである。しかしながら、短時日の間に国の施策の実施を見ることは困難な模様であるので、ここに県としては、これら県水産業者が年末において必要とする所要資金見込額一億円の範囲内において、融資額の半額を検討とする損先補償を金融機関対して行うこととして融資の促進を図り、水産生産の維持と将来の増進とに供へたい所存である。
 以上で知事の説明を終わり、質問に入った。

山本議員
 漁場の国際的紛争の危害を受けて困窮している中小漁業者に対して、金融機関に対する五割の損失補償を県として支給し、厚生の機会を与えるために一億円を年末に出資しようとする議案第八号については賛成するものであるが、その融資のいかんによっては、非常に喜ぶものであるが、もし策を誤れは怨嗟の声が起こることは避けがたいことである。このような融資が行われる場合、やゝもすると特定のもののみに行われて、高いところに地持ちをするという関係でほかのものが締め出されるのである。これは金融機関がその回収の安全を期するあまり、利息の比較的高いもののみに融資するのはないかという声を聞く。従って、この機会においてその融資を渇望するものに対して、よほど慎重な調査を行って適正公平な融資をしなければならないと考える。金融機関の自由意思によって融資の選定を行うのかどうかまたその方針を伺いたい。

小澤知事
 今回取った措置だけによると、あくまでコマーシャルベースのケースバイケースということになるのであって、このことについては金融機関とも話し合っていきたいと思う。ただし、これは年末融資の金融措置であって、これを裏付けするものは先ほどの提案理由で申しあげたように、国においてもこのような災害に対しては農地災害に匹敵するものと考えて、これらの困窮される方々に日銀の特融、あるいは国庫資金による肩代わりといった措置を強力にとってもらう必要がある。これは県令の皆さま方と私と業者と、さらに中央に対する強力な働きかけによって有終の美をなし得るようにしたいと思うのである。
 以上で質問を終わり、議長は提出議案の審査を各常任委員会に付託して、午後四時散会した。

昭和二十七年の県議会
○二月定例会
田中知事
 水産関係については、近時濫獲漁業により漁業資源が極度に枯渇し、加うるに瀬戸内海を中心に違反漁船の横行は漸次頻繁となり、漁業秩序をかき乱すのみならず、関係漁民の経済をおびやかし、まさに崩壊の危機に迫っておる実情であるので、漁業取締施策の強化推進並びに取締船の運営管理など、これら必要経費を追加計上している。他面漁村経済とその指導的中核をなすものは、漁業協同組合、並びに同連合会であり、その健全な発達をはかることは目下喫緊の幼児であるのでその経営士道に努めるとともに、県費一百七十余万を投じて漁協、並びに連合会に対する利子補給をなすこととし、もってその再建整備を容易ならしめる計画である。

○三月定例会
田中知事
 水産関係においては、近時とみに活況を呈してまいった本県水産関係者の旺盛なる生産意欲と立地条件に恵まれた本県の水産業は、講和発効を目前にひかえて一大増産に拍車を加えられ、全国的に生産の首位を争う位置となっていることは誠に喜ばしいことであり、今後ますますこの天恵の優位性の上に関係業者の不屈の精神を期待しておるわけである。この意味において本年度は各種漁港施設の整備費として三百六十六万円、あるいは密漁取り締まりの経費、漁船に対する無線電線電話の設置助成費、新装なった外海および内海試験場の全面的活動促進に要する経費などを計上しているほか、本年度新しい試みとしては外海出漁奨励の意味をもって、対馬漁場を中心に必要な施設を行う経費、並びに本県の遠洋漁業対策として水産物の鮮度の保持、価格の調整、輸送の円滑を期し、かつまた中小業者の維持育成を図るため、下関漁港に冷蔵設備を設けることとして二千万円を計上するなど、水産関係の総経費は一億二千八百六十一万余円となっておる。

 水産関係としては、三十二万円をもって海産稚鮎放流試験を行うこととしたほか、近時外海出漁の漁船のだ捕されるもの多く、これが対策の一助として船舶通信網の強化助成を行っておるが、今回これらだ捕抑留せられた船員のうち、事業不振のために生計にも影響を及ぼすお気の毒な方に対し、見舞品を送り慰籍激励することとした。


昭和二十六年の県議会
○八月定例会
田中知事
 水産関係については、近時内海における密漁の跳りょうは近海漁業者の生業をおびやかし、まことに憂慮すべきものがあるので、これが取り締まりのため、現有の取締船北晴丸に新たな傭船をなし、取り締まりの徹底を図るとともに、要所に漁礁を設けることにより、密漁船の侵航に備え、かつ、漁場確保に資することとする必要経費五百四十六万余円を計上いたした。なお、二千五百五十三万余円を追加して、第二、第三種県営漁港および市町村などの漁港修築を行うほか、三千万円をもって浚渫線を購入し、最近極度に荒廃いたしておる漁港の維持浚渫を行うこととし、漁港機能の増大と漁業根拠地の保全につとめしめることとした。
 右のほか、遠洋漁業の振興助成を図るため無線電話設置に対し補助金を交付することとし二百万円を計上し、さらに漁業協同組合に対しては、その資金繰りを容易ならしめるため、貸付金一千万円の支出をなすかたわら、これが経営の指導、水産加工品の増産指導など、水産振興上必要な経費の追加をした。

宮川議員
 知事にしても、県当局の要路のかたがたも、内海沿岸業者が非常に行き詰っているという実情は、幾度となく実地を御視察になり、御存知のことと思う。しかるに、今回の追加予算をみると、そういう零細漁民の救済をされるについては、いったいどの項目が適用されるのか、その点を伺いたい。

和田民生部長
 漁村の方々をいかにお救いするかということは、水産県としても重大な問題である。特に大島郡近海を中心にする違反漁業、外海の底曳きが内海にまで入って漁礁を荒らすというような点、あるいはダイナマイトを使用する爆破漁業、こういった違反漁業に対して、地元の方々はほとんど死活の問題として苦しんでいられるわけである。県においても検察庁あるいは警察、さらに、水産部では各県に要請するなどあらゆる手段を尽くして、これらの取り締まりに努力している。取り締まりの問題のほかに、いわゆる漁信連に対する貸出しの問題もある。これらについても県としては同様にいろいろの施策を考えねばならぬと思っている。


昭和二十五年の県議会
○一月臨時会
 次に井川議員から、「マッカーサー・ライン内における操業の自由と漁船の保全と漁船員の生命の安全保障の要請決議案」の提出があった。採決の結果全員の賛成で可決された。

○三月定例会
西村議員
 漁業法の改正に伴って、今まで許可なしに機船底引きをやっていたものに対し、知事が農林大臣の承認を得て小型手繰りとして許可することができると聞いているが、現在でもすでに底引き漁船は大変多いのに、これ以上底引きを増やされると、沿岸漁場が大変荒廃することになる。県はどういう対策があるか。もし許可するならばどれくらいの統数を許可するか。

田中知事
 本県の水産業は多様性をもっているが、県の水産行政としては沿岸関係を主とした内容をもっている。この点は本県の水産の内容と、県行政として管轄している面との食い違いである。特に沿岸漁業の振興を図る意味からも、漁礁などについては特に考えているわけである。

○八月定例会
井川議員
 水産部が設置されることはまことに喜びにたえない。しかしその裏付となる水産部内の機構改革案の要綱を見るとき、一まつの寂しさを感ずる。本県の海洋漁業は最近三割の減船を余儀なくされ、あるいはマッカーサー・ライン、朝鮮動乱に伴う操業上の安全面、しかも日々深刻化する金詰りにより、水産経営はまさに崩壊の一歩手前にある。然るに下関の水産事務所では、現在下関漁港事務所の中で水産課下関出張所との併用である。ここには二級以上の技師が必要であると思うが、三級主事の方が配置されている。これではたして下関の漁業者を指導し、県の行政を滲透させることができるか。

田中知事
 御覧のとおり下関に関する行数はまことに少ないが、瀬戸内漁業、日本海漁業もあるので、断じて遠洋漁業を軽視するものではない。

○十二月定例会
藤井議員
 ダイナマイトによる密漁がばっこしている。ダイナマイトを受けると半年は魚がそこに近寄らないという。しかも密漁船は快速を利用して警備船や監視船を尻目にゆうゆうと逃走している。こうした漁民の窮状を早急に解決することこそ、為政者の喫緊の責務である。

田中知事
 仰せの通りの実情であるので、今回の処置をしたのである。





昭和二十四年の県議会
○三月定例会
西村議員
 自分の取った魚は非常に安く、漁船・漁具その他油等はすばらしく高い。次の生産はおろか、日常の生活に苦しんでいる。このさい県費あるいは国庫補助をもって、十分なる漁業の振興をしていただきたい。またまず漁礁の拡充や船溜の設備を十分にしていただきたい。また試験場で研究されたことは、是非とも漁村に出向いて講習会を開き、あるいは技術方面についても指導していただきたい。

田中知事
 御指導の面のみならず、土木費なりなんなりの経費の方に編入されている漁港なり、あるいはその他の経費もあるわけである。大企業としての企業水産と違って、特に沿岸の漁村に対しては県の助成なり、あるいはまた厚い保護というものが絶対必要である。