幸福なポジティヴィスト

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吉田裕,2015,「歴史への想像力が衰弱した社会で、歴史を問いつづける意味」

<書誌情報>
吉田裕,2015,「歴史への想像力が衰弱した社会で、歴史を問いつづける意味」『世界』864: 124-134.

世界 2015年 01月号 [雑誌]

世界 2015年 01月号 [雑誌]

○秘密保護法案
・日本では、戦前より公文書をきちんと保存し後世に残すという考え自体がなく、公文書が公共の財産だという観念が極めて希薄。
敗戦前後には、大量の公文書が焼却処分された。
特定秘密保護法は、情報公開と公文書管理、公開の流れに逆行するものである。公文書にもとづく歴史的な検証が不可能になることは、歴史研究などに大きな影響をもたらすだろう。
新自由主義時代の歴史
新自由主義とは、国際化、競争と効率化という原理によって歴史を裁断する。歴史は新自由主義改革を正当化するための道具として利用される。
新自由主義改革は、社会的格差を拡大させるために、新たな社会的統合の核として新保守主義的な歴史認識を不可避にする。その結果、ナショナリズムの復調が見られる。
新自由主義改革の進展と新保守主義の形成を読み解くことができる。侵略戦争と植民地支配の歴史を美化・肯定する歴史修正主義との結びつきが強い。
○加害者意識の希薄
①脱植民地化の過程が非軍事化の一環としてなされたため。植民地主義の克服という独自に解決しなければならなかった課題が、非軍事化一般の中に埋没し、忘却されたと言える。
②サンフランシスコが戦後処理という性格ではなく、アメリカによる西側陣営への引き込みの性格をもっており、「寛大な講和」となったこと、冷戦終結とともにようやく日本が過去の歴史と向き合い始めた時には戦争の直接の当事者ではない、戦後生まれの世代が多数派となっていたことにより、償いの主体となりえず、アジア諸国からの批判に対して、戸惑いや反発の感情を抱いたことは、加害者意識が生まれにくい土壌である。

③戦争責任に向き合ったとき、日本のアジアにおける政治的リーダーシップの確立と、そのための政治的障害の除去という戦略的な文脈で焦点化されたことにより、国際関係上の要因に規定され、国内的な議論の積み重ねが極めて不十分であった。
④戦争受任論というしょうがないという論理の根強さ。

歴史認識の国際問題化と修正主義者の矛盾
国際問題化:植民地支配やアジア・太平洋戦争をめぐる歴史認識の対立が、日中韓、日韓間のみならず、日米と欧米、とりわけ日米間にも波及するようになったこと。
これによって歴修正主義者たちは戦後レジームからの脱却がアメリカ批判に帰着せざるを得ないという矛盾につきあたる。
靖国神社を指示する勢力が、靖国に公的な性格を付与することを諦め、宗教的な「靖国らしさ」を守るという地点にまで後退している。
歴史的思考能力が死の現場を忘れることによって衰弱している。
⇒政治的に戦争責任にかかわる問題は意識的にせよ無意識的にせよ回避する傾向が強まっている。

○戦後七〇年に発すべきメッセージ
慰安婦」問題に関する、国際社会の常識と日本の世論の間のずれを埋める努力をすることである。日本軍「慰安婦」制度が性奴隷制であるという評価は、国際法の分野ですでに定着しており、それが国際社会の共通認識になっている。にもかかわらず、「吉田清治証言」が虚偽であったことをもって、「慰安婦」の存在そのものを否定するかのような議論は、国際的に全く通用しない暴論だというほかない。日本政府は、すくなくとも河野談話の堅持と河野談話を否定する勢力への批判を、明確にすることが不可欠である。