幸福なポジティヴィスト

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吉田裕「序章 一つの時代の終わり」

<書誌>
吉田裕,2011,『兵士たちの戦後史』岩波書店

兵士たちの戦後史 (シリーズ 戦争の経験を問う)

兵士たちの戦後史 (シリーズ 戦争の経験を問う)

本書は岩波書店の「戦争の経験を問う」シリーズ(全13巻)の「兵士たちの経験」部門の一冊である。(クリックでリンクへ)

目次

序章 一つの時代の終わり   ⇦いまここ!

第1章 敗戦と占領
第2章 講和条約の発効
第3章 高度成長と戦争体験の風化
第4章 高揚の中の対立と分化
第5章 終焉の時代へ
終章 経験を引き受けるということ
あとがき
索引


序章 一つの時代の終わり:1-7.
〇消えゆく戦友会
 元兵士は今何人くらいご存命なのか。やや古い2008年のデータだが、吉田は下限40万、上限89万人とみている。2010年の軍人恩給本人受給者数は、16万2000人。敗戦時における陸海軍の総兵力が789万人だから、大幅に減少している。

※なお、最新のデータは2018年3月までの統計をもとにした、総務省恩給業務管理官(室)「恩給統計からみた恩給受給者の状況」(
http://www.soumu.go.jp/main_content/000248542.pdf
、最終確認2019年7月8日)がある。また恩給予算からの試算では、普通恩給が約1万1千人、傷病恩給が1800人となっている。合わせて1万2800人が下限となる。
恩給統計はECASTより以下のリンクへ。
www.e-stat.go.jp


もう一つ典型的なのが戦友会の解散である。2007年を前後して代表的な戦友会がいくつも解散している。

こうした事例から吉田は、一つの時代の終わりを見ている。その節目となるのが2007年から2008年である。奇しくも戦後保守の代表者安倍晋三内閣の誕生など、政界も世代交代が顕著だ。

〇本書の目的
本書は、アジア・太平洋戦争をたたかい、そして生き残った元兵士たちの戦後史を記録することを意図している。(3)
理由は2つある。
(1)戦争の時代をより深く理解するためには、その戦争の戦後史を視野に入れる必要があると考えるから。
→いわゆる戦後処理は、戦争の歴史と密接不可分。また戦争の残した傷跡の深さは戦後史の分析が欠かせない。

「筆舌に尽くしがたい体験を秘めながら、その後の人生をどのように生き抜いてきたのか、その体験をどのように思想化してきたのかは、非常に大切なことがらである。」(蘭信三,2009,「オーラルヒストリーの実践と歴史との〈和解〉」『日本オーラル・ヒストリー研究』5.)

(2)生き残った兵士の営為が、戦後日本の政治文化を規定していると考えられるから。
→日本人は日本のために非軍事的な貢献を望んでおり、そうした政治文化を生みだした歴史的背景を考察したい。

〇研究の留意点
①兵士や下士官を中心に戦後史を跡付ける。
→元兵士らによる膨大な量の体験記、戦友会の解放などを参考にする。
②戦争の記憶に関する研究の高まり。
→慰霊祭や記念事業の研究成果を取り入れる。
③戦争に関わらなかった特権から、元兵士の戦後史を断罪しないこと。
→戦争の当事者ではないが、戦争を語ることでアイデンティを確認している。
④心の揺れの自覚
戦争犯罪の論証と共に、その時代を生きなければならなかった兵士たちの内面にも目を向けなければならないという心の揺れを常に感じて研究をしてきた。