幸福なポジティヴィスト

アイコンの作者忘れてしまいました。

H・ベッカー,村上直之訳,2011,『完訳 アウトサイダーズーーラベリング理論再考』

<書誌情報>
Howard S. Becker, 1973, Outsiders: Studies in the Sociology of Ceviance, New York: The Free Press.(=2011,村上直之訳,『完訳 アウトサイダーズ――ラベリング理論再考』現代人文社.)

完訳 アウトサイダーズ:ラベリング理論再考

完訳 アウトサイダーズ:ラベリング理論再考

目次
第1章 アウトサイダー
第2章 逸脱の種類――継時的モデル

第3章 マリファナ使用者への道   ⇦いまここ!
第4章 マリファナ使用と社会統制

第5章 逸脱集団の文化――ダンス・ミュージシャン
第6章 逸脱的職業集団における経歴――ダンス・ミュージシャン
第7章 規則とその執行
第8章 モラル・アントプレナー
第9章 逸脱の研究――問題と共感
第10章 ラベリング理論再考

原注
原典の参考文献
ラベリング理論への招待
ラベリング理論文献目録
インタラクショニスト社会学の50年――あとがきにかえて
索引


第3章 マリファナ使用者への道
1.本章の課題
・従来のマリファナ使用の分析枠組みは,個人の特殊な行動は,そうした行動に駆り立てる要因である性格特性の存在を明らかにすることで説明できるというもので,心理学的なアプローチにとどまっていた.

⇔逸脱動機が逸脱行動を導くのではなく,まったく逆なのだ.すなわち,逸脱行動がいつの間にか逸脱動機付けを生み出すのである.漠とした衝動ないしは欲望――この場合はおそらく麻薬体験に対する好奇心――という,それ自体はあいまいな身体的経験に,社会的解釈がほどこされることにより,それがやがて決定的な行為パターンへと変貌するのである.(: 37)

・私たちがこの章で理解しようと試みるのは,楽しみを目的としたマリファナ使用を導く,態度と経験における変化のシークエンスである.
心理的アプローチが前提する心理的特性は,そうした特性をもたないマリファナ使用者を説明できない.マリファナは他の麻薬と異なり,非脅迫的かつ任意的な性格をもつ(強い中毒性はなく,マリファナが吸えない時は簡単にあきらめることができる).また心的アプローチは時間的な変化を説明できない.前吸ってなかった人がなぜ楽しむ吸い方をするようになったんか?など
・分析方法はマリファナ使用者たちと50回のインタビュー.サンプルは無作為ではない.

2.マリファナ使用までのシーケンス
マリファナは,普通に吸ってもハイになることはできない.そのため,ハイになれず使用者とならないケースがある.
〇第一段階:喫煙法
マリファナでハイになるにはテクニックが必要な喫煙法の獲得が必要.
→吸い込んでからのため込みが大事.
〇第二段階:自分がハイになっていると認識できること
・他人から見ればハイになっているが,本人はハイになっていないという状態がある.
→薬物の効果だけでハイになれず,自分がハイになる兆候を薬物使用から生じたものと認知しなければ,ハイに至らない.
→初心者はハイになる感じを獲得しようと,他の喫煙者に「ハイ」の状態を聞き出し,その内容を自分の経験に当てはめることでハイになる.自分の体の変化とマリファナを結び付けて認識することでハイになれる.それができなければ使用をやめる.
⇒他のマリファナ使用者との相互作用がいかに重要な役割を果たすかということを証明している.
〇第三段階:ハイであることが楽しいこととして認識されること
・ハイになっている=楽しいことではない.ただただ不快なだけで終わることがある.またいわゆるバッドに入ると恐怖体験に代わることも.
マリファナの楽しみは経験豊富な使用者から学ぶ,経験についての好ましい解釈によってもたらされる.しかもそれは継続的にもたらされない場合,途中で簡単に足を洗うことができる.

3.まとめ
マリファナの快楽的効能を認識するための学習過程がある.
①特殊な喫煙法,②薬物効果を知覚し,それがマリファナによるものとして関連付ける必要がある,③マリファナを楽しむ学習
⇒これら3段階を経なければ,マリファナ使用者とならない.
・この段階の中で動機づけが行われる.動機が先ではなく,動機は後からついてくる.

第4章 マリファナ使用と社会統制
1.本章の課題
マリファナ使用となるには,三段階の学習プラス社会的統制との戦いがある.
・社会統制とは①権力の行使,つまり制裁を加えることで個人を統制する.②自己統制のメカニズム(つまり,いいことと悪いことの学習)により統制する.
⇒このような行動の防止を機能とする精巧な社会統制にもかかわらず,いかなる出来事と経験のシーケンスが一人の人間をマリファナ使用に踏み切るに至らしめるのであろうか.
マリファナ使用の段階,①初心者,②機会的使用者,③常習的使用者

2.3つの社会統制
〇供給
・薬物への罰則がある中で,供給者と知り合うにはそれなりの困難が伴う.
マリファナとつながっている「集団」への加入が条件になる.
→入手可能性という条件の変化によって動揺を受ける不安定なもの.安定かつ継続的に入手可能な供給源がなければ,③の段階には突入しない.したがって,集団との密接なつながりが必要となってくる.
→法の執行は麻薬を悪い事として認識させるだけではなく,供給の不安定からくる入手困難性によってマリファナ使用を社会統制する.
〇秘密
・ほかの人にばれたらヤバイ.
→現在の人間関係を崩壊させる危険性にどれだけかけることができるか.自分が法的に罰せられることをどれだけ考えないようにできるのか.
→常習的喫煙者は,吸うことと自分の秘密が露呈しばれてしまうこととのジレンマを克服した人間.逸脱集団での生活など.
〇モラル
・因習的な見解(吸っちゃダメ)に反する行為を合理化かつ正当化していくことが必要.

⇒これらの社会統制を振り払うことでマリファナ使用に対して自由になれる.

3.コメント
こうしたベッカーの参与観察やインタビューによる分析は,マリファナを吸う人の心理的な特殊性ではなく,あくまでも他のマリファナ使用者や社会,家族なるものとの相互作用のプロセスが重要であることを示している.先に挙げた「動機が行動を導くのではなく,逆なのだ」という逆説は,本書の意味とりわけ3章と4章を要約している.
「動機」の社会学的理解については,前記事を参照.
chanomasaki.hatenablog.com