幸福なポジティヴィスト

アイコンの作者忘れてしまいました。

青木理,2014,「朝日バッシングの背景と本質――「本気の覚悟」問われるジャーナリズム」

<書誌情報>
青木理,2014,「朝日バッシングの背景と本質――「本気の覚悟」問われるジャーナリズム」『世界』862: 130-137.

世界 2014年 11月号 [雑誌]

世界 2014年 11月号 [雑誌]

どのようなメディアの報道であれ、誤報であれ、「売国」「国益を損ねた」「反日」などという言辞を弄して罵声を浴びせるのは絶対に好ましくない。追及することこそがジャーナリズムの役目であり、以上の罵声は、その役目を放棄せよと迫っているに等しい。言論・表現の自由を抑圧する悪影響を及ぼすだろう。
このような言辞が飛び交う背景には、日本社会の「上部」にも「下部」にも黒々と根を伸ばす歴史修正主義の蠢きが、べったりと張り付いてるのではないか。
上部:「戦後レジームからの脱却」なるお題目を掲げた為政者。彼らは戦後民主主義的な態度やリベラルな価値観を極端に嫌悪し、朝日が戦後民主主義やリベラル勢力を表象する存在だと思い込んでいる。
下部:ヘイトスピーチをがなりたてるレイシストがのさばる。街中の書店には反日をたたいて愛国を鼓舞し、隣国への憎悪をあおる最悪のポピュリズムが広がっている。
慰安婦誤報取り消しの背景
検証記事では吉田証言にもとづく記事おいて「証言は嘘だと判断し、記事を取り消します」と結論づけた。しかし、唐突感がぬぐえない。
朝日の編集幹部に聞くと大きく3つの理由があった。
①朝日に押し寄せた抗議と批判
本社周辺での右翼の街宣車が走りまわり、朝日新聞OBがネット上などで激しい個人攻撃に晒された。こうした状況に一区切りつけるため。
②史上最悪といわれる日韓関係の悪化の状況を座視できなくなっており、過ちは過ちと認め正しいことは主張するという整理をしておく必要がある。
③人事
ソウル支局経験者が編集幹部について最悪状態の日韓関係をどうにかしたいという思いが人事によって後押しされた。
⇒しかし、日本社会の上部に下部にも蠢く歴史修正主義の動きに朝日新聞社の稚拙な対応などが繰り返され、無残に屈したとみるべきだ。
○稚拙な対応
記事の取り消しではなく、慰安婦問題に関する徹底的な取材をもとに慰安婦問題の本質を浮かび上がらせるような記事を連打し攻撃に対して備えるべきであった。

メディアの活動に売国反日などの罵声を浴びせることは、メディアやジャーナリズムの役割の否定につながるばかりか、愛国を鼓舞して、隣国への敵愾心という究極のポピュリズムにつながりかねない。しかし、これを機会として朝日をたたき、自らの販売部数を増やそうとする動きなど、卑しき打算が見られるというのは現在に日本のメディア状況である。
この国のジャーナリズムが総転向状態というべき状況に入り込んでしまったと言える。