幸福なポジティヴィスト

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Philip Seaton,2006,「Reporting the 'Comfort Women' Issue, 1991-1992: Japan's Contested War Memories in the National Press」

<書誌情報>
Philip Seaton,2006,「Reporting the 'Comfort Women' Issue, 1991-1992: Japan's Contested War Memories in the National Press」『Japanese Studies』26(1): 99-112.

↓PDF(Full Text)
https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/10371390600636307?needAccess=true

Philip Seaton, 2006, Reporting the ‘Comfort Women’ Issue, 1991-1992: Japan’s Contested War Memories in the National Press, Japanese Studies, 26(1), 99-112.


1.要約


2.Introduction: The ‘Comfort Women’ Issue and Japanese War Memories
・「慰安婦」問題の登場は,日本の戦争の記憶を転覆させ,日本の世論を2分化させた.
・重要な役割を果たしたのが日本の戦争言説におけるフェミニストの言説である.
→極右運動はこれらへの反動と防衛である.

3.Newspapers in Japanese Society
・日本の新聞はしばしば西洋の知識人から批判される.とりわけ,記者クラブ制度におけるジャーナリストと権力の密接な結びつきは,新聞の質と自由という「高潔」を傷つけていることとして批判されてきた.(: 100-101)
記者クラブ制度が実際に公的なニュースを報じる際の同質性の要因になっている一方で,新聞には多様な立ち位置が存在する.(: 101)
→従属的で同質的な日本のメディアという修正主義的な見方は,過度に単純化されたものだ.

4.Introduction to the Two Newspaper Surveys
・本稿では2つの調査からなる.
(1)1991年12月から1992年2月までに「慰安婦」問題関連の記事と真珠湾攻撃50周年に関わる記事を分析する.
→6つのタイプに分けることができる.
①「Reports」:行動や出来事,声明
②「feature article」:日付のない記事で,退役軍人のプロフィールとか
③「op-ed pieces」:投稿記事
④「editorials」:社説
⑤「letters」:読者投稿
⑥「special reports」:特集記事
⇒725の記事で一日当たり2.66記事あったことになる.76の記事が一面に掲載されており,277の記事が「慰安婦」問題を扱っていた.非常に高い関心であることを示すレベル.

(2)4日分の記事のスナップショットの調査
・全国紙と英字新聞3紙を1992年7月6日から10日まで
⇒日本の新聞のイデオロギー的な幅について導き出される結論と日本語新聞と英字新聞の比較が可能になる.

5.The Emergence of the ‘comfort Women’ Issue, December 1991-February 1992
・1991年12月6日に元慰安婦らは訴訟を起こしたが,真珠湾攻撃50周年の裏側で,メディアの関心を呼ぶことはできなかった.
→結局は,「慰安婦」らの民事訴訟は,(実名報道慰安婦という)新たなひねりがある(日本政府から謝罪と補償を獲得する無駄なミッションのアジアの犠牲者という)古い物語であった.それはニュースだったが,一面を飾るニュースではなかった.(: 102)

・謝罪に関しては必要または当然という反応だったが,補償の問題に関してははっきりと異なる主張が見られる.
朝日と毎日は補償が必要.読売は対照的に,補償問題は1965年の日韓条約で解決済みということで政府の方針を繰り返した.

・特集記事に関しては,朝日と毎日新聞が「慰安婦」問題を取り上げているにもかかわらず,読売新聞は真珠湾記念に関する特集記事3本だけであった.

・「慰安婦」関連の記事は,①日本政府,②国際的な主体,③日韓合同声明,④日本市民の反応,⑤資料,⑥社説や顔や投稿記事のような議論に貢献するものの6つにわけることができる.
①の日本政府に関しては,記者クラブからのレポートをそのまま使っており,その点で3紙の報道量の差がない.しかし,記者クラブ関連の記事は全体の3分の1であって,記者クラブが新聞の立ち位置を同質化しているという議論は,誤った推論である.
②の国際的な主体に関しては違いがはっきりしている.読売が21本とダントツで少なく,毎日が48本もある.
④は朝日と毎日が市民活動を多く報告している中で,読売新聞は全く無視している.その点で,日本と韓国政府の問題として表象する読売新聞と,「慰安婦」問題を考慮する日本国内の世論を表象する朝日と毎日という構造になっている.
⑥に関しては,朝日が毎日と読売の2倍の報道量であるが,これは⑤の報道が反映されている側面がある.
⇒朝日と毎日が質量ともに多く,読売は比較的低い報道量にとどまっている.

6.Japanese Public Reaction: Letters to the Editors
・声欄は朝日が最も多く,毎日,読売と続く.
7.Publication of First ‘Comfort Women’ Report
・1992年7月6から7までの4日間で分析
・英字新聞は概して報道量は少ない.
・朝日,読売,産経,毎日,日経の報道量.
・読売は謝罪は当然だが,補償問題は解決済み.

8.Conclusions
・「慰安婦」問題に関するメディアの意見は,広い範囲の世論に広まっていた.1991年から1992年において,朝日と毎日は政府の批判の先鋒であり,適切な謝罪と補償を押し出していた.日経は政府よりは進歩的だったが,報道量は比較的少なかった.産経新聞は政府の正しさを主張し,政府が諸外国の要求に屈していることを批判した.読売新聞は公式見解にくぎを刺し,日本のメディアが政府に従属するという修正主義者の批判に一致した唯一の新聞である.これらの違いは,「調整された一つの声の聖歌隊」としての日本のメディアの性質は過剰に単純化されたものであるといえる.