アンダーソン『想像の共同体』「Ⅴ 古い言語、新しいモデル」
<文献>
Benedict, Anderson, [1983]2006, IMAGINED COMMUNITIES: Reflections on the Origin and Spread of Nationalism, London: VERSO. ( = 2007, 白石隆・白石さや訳『定本想像の共同体――ナショナリズムの起源と流行』書籍工房早山.)
Ⅴ 古い言語、新しいモデル
1.課題の設定
〇課題
・アメリカのクレオール・ナショナリズムとヨーロッパの新しいナショナリズムの違い。
①「国民的出版言語」がイデオロギー的、政治的に中止的な重要性をもつ。
②遠くの、そしてフランス革命の激動以後は、もっと近くの先例を現実的モデルとする。
→国民は意識的に達成すべきフレームとなった。
⇒出版語が台頭するプロセスとそうした出版語が中心的役割を果たすナショナリズムが一つのモデルとなり、それらが複製され(海賊版)出回るということに焦点を当てる。
2.出版言語の台頭するプロセス
〇時間的・空間的縮小
・人文主義者による古典主義の発掘の成果
→古代の出来事が、「歳月のへだたりという点からばかりではなく、生活条件が全く違うという点からも、自分たちの時代とかけへだたったものであるという観念」を生み出した(アウエルバッハ)。
⇒古代―中世―近代といった時代区分とそれらの比較史という考え方は、古代や中世を離れたところから異質なものとして観察する対象として扱う(p.122)。
・世界の水平線の拡張
→アジア・新大陸の発見は、人間の「多元性」を示し、学ぶモデルは古代という「過去」から同時代の「地域」に代わった。
⇒「ヨーロッパが多くの文明のひとつにすぎず、しかも必ずしも神に選ばれたものでもなければ最高のものでもない」という観念が広まる(p.123)。
〇言語の多元性
・聖なる言語と俗語との間の関係性は、垂直的から水平的へ。
→研究対象、文学対象としての俗語が台頭。
→19世紀は、俗語の辞典編纂、文法学、言語学、文学者の黄金時代(シートンワトソン)。
⇒出版言語が、とりあえず、学校・大学の場を中心に主要言語となり、ナショナリズム形成の中心的役割を果たす。
〇俗語の台頭
Ex)フィンランドの場合
・18世紀
国家語:スウェーデン語。
・1809年:ロシア帝国による併合
官語:ロシア語
⇔フィン語とフィン族の過去が「目覚め」ており、しだいに出版語はフィン語へ。
著述家、教師、牧師、法律家によって、民間伝承の研究がフィン語の文法・辞書編纂と同時に進み、出版語=フィン語の標準化、それを基礎とした政治的欲求が高まる。
〇出版言語の流通プロセス
・出版言語の生産者
⇒言語を扱う著述家、教師、牧師、法律家や作曲家。
・出版言語の消費者
⇒読書階級:貴族廷臣聖職者といった旧支配者+下級官吏、専門職、商業・産業ブルジョアジーなどの勃興しつつある「中産階級」。
〇凝集性の担保
旧時代:王族・帰属の連帯を担保するのは親族・庇護・忠誠によるまとまり。
近代:中産階級の連帯を担保するのは言葉と文化の共通性。
⇔権力と出版言語の領域の不一致
⇒国家はいかなる言語をラテン語と置き換えるのか?
⇒出版言語の置き換えがどのようにナショナリズムを喚起したのか?
2.海賊版=モデルの普及
〇概念・モデルとしての練り上げ
Ex)フランス革命
→指導者のいない捉えどころのない革命だが、「フランス革命」という一つの出来事となる。
・国民国家の概念・モデルが出版言語によって流通する
→共和制、公民権、人民主権、国旗、国歌その他を持つ国民国家モデル=対立概念:王朝帝国、君主制、絶対主義、臣民、貴族、農奴制、ユダヤ人街その他の清算。
・ハンガリー人=どんな言語を話していようが、「ハンガリー人」すべてを包摂する。
→ハンガリー語の話者と読者を主権の究極的所在として、農奴制の解体、民衆教育の推進、参政権の拡大を意味していく。