津田正太郎「第8講 メディアは国境を超えるのか」『メディアは社会を変えるのか』
<書誌情報>
津田正太郎,2016,「第8講 メディアは国境を超えるのか」『メディアは社会を変えるのか——メディア社会論入門』世界思想社,76-86.
- 作者: 津田正太郎
- 出版社/メーカー: 世界思想社
- 発売日: 2016/03/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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1.グローバルな文化消費と遠隔地ナショナリズム
・衛星放送やインターネットの普及によって様々な情報や文化が簡単に超えるようになっている.
Ex)海外に移住した人たちが,移住先の国でも母国語のニュース・ドラマ・映画・音楽を容易に消費できる.
→ホスト国に同化せざるを得なかった移民たちは,移住先で母国の文化や言語を保持し続けるようになった.こうした状況は「遠隔地ナショナリズム」と言われる(アンダーソン 2005: 126).
こうした状況は,彼の移住先でもともと暮らしていた住民から,社会の統合が脅かされてしまうのではないかという不安を惹起する.欧州のトルコ系移民はホスト国から脅威として認識されている.
2.文化帝国主義
・文化帝国主義論
先進国の多国籍企業は,開発途上国に映画やテレビ番組,広告のような文化商品を輸出し,それらを通じて消費社会に適合的な価値観を人々に植え付けている.それらの文化商品は先進国の便利な生活に対するあこがれを与え,不利な取引であっても先進国との交易関係を続けていく.その結果,途上国の伝統的な文化や生活様式は破壊され,先進国に従属し続けてしまう.巨大な多国籍企業の資本による世界の分割,支配下生みだされる過程を論じる.
文化=ライフスタイルの安易な輸出は,途上国の人々の生存を脅かす一方で,技術や知識の普及が非人道的な因習を改める機会になるなど,一方的な断罪はできない.
3.サイードのオリエンタリズム
先進国のニュースで表象されるアラブ人は,冷静かつ理性的に自らの意見を述べる人物ではなく,デモや暴動で暴れる群衆として描かれている.これは先進国の国際通信社の記者によって報道されることで,意識的にせよ,無意識的にせよ,その報道に先進国の偏見が反映されているのである.
4.途上国による情報発信
・アル・ジャジーラ,アル・アラビーヤに代表される衛星放送局.
世界の衛星チャンネルの38%がアラブ人によって所有されている.政府による情報統制が反映された番組ではなく,Aの意見とBの意見を登場させた論争型の番組編成によって人気を博す.複雑な情報の流れができている.
〇コメント
・文化産業のグローバル化
多国籍化した文化産業が行使する支配権の及ぶ規模と範囲をというものに留意しなくてはならない.そして文化産業の所有とコンテンツは一致しない.所有の均衡は常に多様性と開放性に貢献するような形で作用するわけではない.
Ex) Sonyは世界へ向けて日本の文化を発信しているのではなく,ハリウッドの文化を生産している.
・メディアに媒介された文化的な力としてのグローバル化とその経験との関係について.
①グローバルな空間へ拡張し,その空間を変容させてしまうようなローカルな文化の能力
→グローバルな空間でローカルな文化が可視的になっていくことがローカルな文化それ自体にどのような影響を及ぼすのか.そのオーセンティシティを維持する能力にどのような影響を及ぼすのか.文化の固定化,文化の変容,ハイブリッド化.
②異なる空間,異なる都市にいるメンバーを結び付けるネットワーク,散り散りになっていった人々と,言葉のある意味において家郷に残った人々を結び付けるネットワーク.こうしたネットワークがメディアを通じて作動する.
⇔移民先の社会とグローバルな枠組みという矛盾をはらんだ空間でマイノリティが文化を形成・再形成していくときの異なるメディアの利用とその役割.社会において利用可能なアイデンティティの形成の様式を変容させる.文化形式の混在.
③イベントの共有
ナショナルの文化,ローカルな文化,宗教的な文化,プライベートな文化への浸透とともに,共有されていたイベントの意味と趣旨は分裂していく.トピックとしてはぐr-バルであったかもしれないが,それはローカルで特殊な利害やアイデンティティを表明するための資源になっていった.
[参考]
Roger, Silverstone, 1999, Why Study the Media?, London: SAGE Publication.(=吉見俊哉・伊藤守・土橋臣吾訳,2003,『なぜメディア研究か?――経験・テクスト・他者』せりか書房.)
- 作者: Roger Silverstone
- 出版社/メーカー: SAGE Publications Ltd
- 発売日: 1999/10/22
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