幸福なポジティヴィスト

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G・バシュラール『科学認識論』

<書誌情報>
Lecourt・Dominique ed., 1971, Bachelard, Épistémologie : textes choisis, Collection SUP "Les grands textes" , Paris: Presses Universitaires de France.(=1974,竹内良知訳『科学認識論』白水社

科学認識論

科学認識論

※本書はG・バシュラールの論考を、エピステモロジーの流れくむD・ルクール(パリ第七大学教授)が選択編集したもので、バシュラールが『エピステモロジー』という書物を一貫した目的のもとかいているわけではない。そのため、各章各節の初出は異なる。

※今回取り上げるのは、全部ではなく、第三部以降。


目次

第三部 科学史に向かって

 Ⅰ 連続か不連続か?

 Ⅱ 歴史的綜合とは何か

 Ⅲ 科学史の現在的意義



Ⅰ 連続か不連続か?
a 科学の漸進的「創発」?
〇文化の連続論者
・歴史の連続性を主張。
→小さな出来事を1つの連続的物語にする。
・起源について考察することを好む。
→科学の進歩は緩慢であるため連続的に見える。進歩は連続的であるという公理。
⇔科学的進歩の「爆発」という概念。
Ex)「この研究報告は化学の歴史における真の連続性を示している。それ以来、進歩は急速であった」
→たった数年で膨大な数の発見があるので、連続性の線は粗雑で、細部の特殊性を忘却している。
⇔科学者がいくら進歩の急速性を訴えようとも、哲学者らは、その非連続性の範囲に手を付けず、知の連続性を主張する。

b 「影響」の概念

・進歩の功績の矮小化
→天才による進歩を、その天才が生きた時代の「雰囲気」や何かしらの「影響」によるものであるとする。
⇔「影響」という概念は、時間と空間を貫通するが、現代科学における真理と発見との伝達においてはほとんど意味をもたない。
→科学は試行的合理論であり、異議申し立てがされなかった真理というものはない。現代科学の歴史の織物は、討論の時間的織物である。諸説の論拠の数だけ、非連続性の機会がありうる。

c 「常識」の論拠
〇教育法における文化連続論者
・初歩的科学、易しい科学の伝統を守ろうとする
→化学は記憶の学問であり、知識の伝達だけで事足りる。
⇔化学は真にそれ自体においても難しくなった。
Ex)R・レピオーの回想
→当初化学は、統一性のない「事実のガラクタ」にみえたが、原子論者の講義を聞いたとき諸事実はたがいにつながりあっていたことを知る。
→理論化学は理論物理学と緊密な統一に基礎づけられており、記憶するためには複雑な統合的な見解を理解しなければならない。
・現代科学の難解さ
→探求の心理的力動性の条件そのもの。科学的労働は、研究者が困難を自ら作り出し、虚偽の困難、想像上の困難をふるい捨てることである。
→科学の歴史全体を通じて、困難な問題に対する一種の欲求衝動を見ることができる。
Ex)錬金術
→自分の知識が困難かつ稀有なものであることを欲し、物質的転換の問題を宇宙や道徳、宗教的な難問で覆った。
→困難なものに対する振る舞い方(困難の対自)を本質的にもっていた。
錬金術は、変化しないものの連続性、変化に抵抗するものの連続性か?
錬金術の困難≠近代唯物論の困難
⇒昔の困難と現在の困難との間には、全面的な非連続性がある。

d 言語の罠
・科学の言語は、人に連続性という錯覚を与える。
→科学の言葉は、絶えず訂正され、補完され、ニュアンスが付けられる。
⇒永続的な論的革命の状態にある。
Ex)ニールス・ポーアの「水滴」
原子核のいくつかの法則を簡潔に表現するために「滴」イメージを提示。また内部エネルギーを「滴」の「温度」といい、粒子のう放射を「蒸発」という。
⇔「水滴」は古典物理学の概念とは全く異なる。そこになんらかの「連続性」はない。概念の概念。
⇒科学的言語は、原理上、新言語である。「」(引用符)をつけねばならず、これは化学の意識の独自な態度の1つであり、科学的用語であるという宣言でもある。
⇒「」は知の改革の指標である。


Ⅱ 歴史的総合とは何か
1「変換的総合」
〇科学的客観性
・科学的客観性
→人類史×科学的探究が本質的にもつ現在性的関心に基づく努力との合流点
⇒新しい学説の評価には、長い歴史的前提を一通り理解するのが良い。
⇔歴史的総合が、歴史的に準備されていると考えるとことは間違っている。
⇒いかなる歴史的理由も科学を現在の方向に推し進めるものではなく、ただ仮説の美学に対するあこがれだけが問題の展望を開いた。

2「祖先のない諸科学」―「認識論的行為」
〇祖先のない諸科学
→現代の諸科学は祖先のない諸科学である。近代諸科学の進化における歴史的断絶。
Ex)原子爆弾
→核物理学に、もはや伝統的原子論の痕跡はない。
⇔革命的性格、歴史との断絶という性格にもかかわらず、歴史的総合だ。
→二度行き詰った歴史が再び新しく出発し、科学的思想の新しい美学を目指しているから。
科学史における当面の有効性という問題
→近代的見地は新しい展望を呼び起こし、その展望がこの科学史の科学的教養における当面の有効性という問題を提起する。
⇒①判定された歴史の作用、②誤謬と真理、③惰性的なものと活動的なもの、④害になるものと実になるもの、を区別する義務がある歴史の作用を明らかにする。
・理解された歴史
→理解された歴史は純粋な歴史ではない
→歴史家が自分の時代の諸価値を消え去った時代の諸価値の測定に押し付けるならば、それが「進歩の神話」に従っているといって非難されるだろう。
科学史は歴史とは違う
〇科学における「進歩」
→科学的思考にとっては、進歩は論証されている。進歩は科学的教養の力動性そのものであり、科学史の対象はこの力動性。
科学史は誤った概念への逆戻りを取り除く。過去の誤謬を引き立て役としてしか扱えない。
⇒認識論的障害と認識論的行為との弁証法
・認識論的行為
→科学的発展の経過の中で思いがけない衝撃をもたらすあの科学的天才の行動に対応する。
科学史には否定的なものと肯定的なものがある。
⇒失効した歴史と現に働いている科学によって承認される歴史との弁証法を絶えず形成し、形成し直さなければならない。
Ex)比熱の概念は永遠に一つの科学的概念である。
⇒承認された諸要素の1つであるということ。
・回帰する歴史
価値づけられた諸概念の連続性についての哲学
→歴史的連関の問題、合理的なものがそれによって、偶然的なものを漸進的に征服していく連関という問題に直面している。
⇒一つの回帰する歴史、現在の目的性によって照らされる歴史、現在の確実性から出発して過去の中に心理の漸進的形成を発見する歴史を定式化するという教育的必要がある。
科学史は非合理的なものの敗北の歴史。


Ⅲ 科学史の現在的意義
科学史と現在

科学史家がその科学の価値の審判者となるためには、現在を認識しなければならない。

⇒科学は現在的意識と強く結びついている。

→近代性の意識と歴史性の意識は比例する。

〇現在から回帰する歴史

現在から差し込まれた光が、過去を照らし出すことがある。

Ex)パスカル=ブリアンション

⇔過去の思想をあまりに活動的に描写しすぎることもある。

Ex)レオン・ブランシュヴィクの錬金術批判

⇒事実の展開の歴史に価値の展開の歴史をダブらせる

⇒支配的な諸価値、科学的思考の場合には近代性の中で活発に働いている価値を認識しなければ、諸価値を正しく評価できない。

科学史

科学史は経験的な歴史ではない。

⇒高度な形態においては、知の合理的連関の歴史だから。

〇二重の結合

①原因から結果

②根拠から帰結

〇近代の諸発見

経験的発見から、合理的組織化

〇昔の科学史

スローモーションで展開される進歩の過程

〇最近の科学史

加速された姿で再現する。