吉田裕『兵士たちの戦後史』書誌情報と目次
<書誌>
吉田裕,2011,『兵士たちの戦後史』岩波書店.
- 作者: 吉田裕
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/07/27
- メディア: 単行本
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本書は岩波書店の「戦争の経験を問う」シリーズ(全13巻)の「兵士たちの経験」部門の一冊である。(クリックでリンクへ)
目次
序章 一つの時代の終わり
第1章 敗戦と占領
第2章 講和条約の発効
第3章 高度成長と戦争体験の風化
第4章 高揚の中の対立と分化
第5章 終焉の時代へ
終章 経験を引き受けるということ
あとがき
索引
津田正太郎「第15講 社会問題とメディアはいかに関わるのか」『メディアは社会を変えるのか』
<書誌情報>
津田正太郎,2016,「第15講 社会問題とメディアはいかに関わるのか」『メディアは社会を変えるのか——メディア社会論入門』世界思想社,158-168.
- 作者: 津田正太郎
- 出版社/メーカー: 世界思想社
- 発売日: 2016/03/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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1.社会問題を分析する枠組み
〇社会問題とは何か
・ある現象(出来事・客観的事実)が社会の中で問題として位置付けられることによって,はじめて社会問題として立ち現れてくる.
→事実の有無を問うのではなく,様々な出来事のなかで何が問題として社会的に定義されるのかが問題となる.
〇社会問題とメディア
・メディアが社会問題に及ぼす影響に注目するアプローチ
→メディア報道それ自体が社会問題の一部として組み込まれ,分析の対象となる.
⇒①社会病理学的(Social Pathology)アプローチ.
・社会問題に対する人々の関心をメディアが作り出す過程を分析しようとするアプローチ
→社会的に定義されるプロセスを分析する.
→②モラルパニック論,③社会構築主義
2.社会問題の社会病理学的アプローチ
・社会の水準での「正常」と「病理」.ノーマライゼーション(Normalization).病理をもたらす原因を特定し,除去することで正常な状態に戻す.
Ex) 犯罪社会学:社会のルールや価値観を身に着け,行動することを「社会化」というが,それが十分に行われなかった結果として犯罪が行われてしまう.
子どもが万引きをするのは,人のモノを取ってはいけない,またはお金を払って購入しないといけないというルールを知らないからだ.
→少子化の病理は,正常な状態を子どもは生まなければならないという価値観が失われ,パートナーとの生活を充実させようとする価値観によって生み出されている.こうして特定された原因をもつ人々を,逸脱者として除去することで,「正常」な社会に復帰できる.
・文化的目標と現実とのズレによって引き起こされる犯罪.
→遊ぶ金欲しさの強盗,詐欺,売春などの犯罪.または具体的な怒りの矛先が見えず,だれでもいいから殺したかったという無差別殺人や通り魔.
→ここでの「病理」は現実とはかけ離れた欲望を喚起するイメージがメディアによって流布する状態や,同じ目標に向かうなかで脱落した者たちのこと.
3.社会問題のモラルパニック論的アプローチ
・ラベリング理論
→ベッカー,1963,『アウトサイダーズ』のラベリング理論:「社会集団はこれを犯せば逸脱となるような規則をもうけ,それを特定の人びとに適用し,彼らにアウトサイダーのレッテルを貼ることによって逸脱を生みだすのである.」(Becker, 1963=1978: 17).
→レッテルを貼られた人々が,そのレッテルを引き受け,周囲からの予想通りの行動をすることで本当の逸脱者を産出し,あるいは増幅する.逸脱は個人的な心理状態や生物学的な遺伝で説明することはできない.社会統制する側とされる側との相互作用のプロセスが重要だ.
⇒状況の定義づけ(definition of the situation)の視点.
・モラルパニック論
ラベリング理論の「状況の定義づけ」の視座を取り込む.「ある状態,出来事,個人,あるいは個々人の集団が,社会的な価値や利益にとっての脅威として定義されるようになる」ことで発生するパニックであり,これらをマス・メディアが特徴づけ,それをステレオタイプ化して表象することで生じる(Cohen 2002: 1).
→様々な社会問題を過剰に危機的に取り上げるマス・メディア報道が批判の対象となる.
⇒モラルパニック論の前提は,問題の客観的状況と人々に共有された現実認識の間に生じる乖離を「不均衡性(Disproportionality)」である.
・不均衡性の問題点
→問題が現にあることから目をそらしてしまう口実になるのではないか?大衆とそれを啓蒙するエリートという前提.それを論じる人の政治的立場が反映されやすい.
4 社会問題と社会構築主義のアプローチ
・社会問題にかかわる人々の諸活動を記述する.
→発話の背後に語る主体の意図,非意図的な語りの中で主体の意に反して明らかになった無意識の作用を見出すということをしない.
・ウルリッヒ・ベックのリスク社会論と社会構築主義
→人々は予測困難なリスクに取り囲まれて暮らしている.不確実性の時間的空間的な広がり.情報に触れることでしかそのリスクを認識できず,その点でメディアの情報は現実を構成する.
⇒現実の判断を棚上げして分析できる.
⇔無責任な態度?
[参考]
山口仁,2009,「ダイオキシン問題とマス・メディア報道――「不確実性」下における社会問題の構築過程に関する一考察」『マス・コミュニケーション研究』74: 76-93.
chanomasaki.hatenablog.com
Howard S. Becker, 1973, Outsiders: Studies in the Sociology of Ceviance, New York: The Free Press.(=2011,村上直之訳,『完訳 アウトサイダーズ――ラベリング理論再考』現代人文社.)
- 作者: ハワード S.ベッカー,村上直之
- 出版社/メーカー: 現代人文社
- 発売日: 2011/10/31
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- 作者: 鈴木宗徳
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2015/02/25
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『天皇そして昭和——日本人の天皇観』
<書誌>
朝日新聞テーマ談話室編,1989,『天皇そして昭和——日本人の天皇観』朝日新聞社.
- 作者: 朝日新聞テーマ談話室
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 1989/04
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呪縛の言葉 田口甚兵衛 68 無職 蕨市 175-176
それと同時に,日本国外にまで視野を拡げると,朝鮮の民衆の中で,男は戦争末期に日本兵同様に,徴兵され,あるいは炭坑のタコ部屋へ送られ,女は産業戦死という偽りの言葉で狩り出され,兵隊の肉欲の慰安に供せられたりした.そして彼らは「皇国臣民の誓詞」を唱えさせられ,「創氏改名」を強いられた.
字が読めないのに 原田務 65 元会社員 横浜市 176
直立不動の姿勢をとっている私たちを,古兵は気がふれたように殴った.原因は明らかに慢性的な空腹によるイライラと,性的欲求不満であった.
タバコ一本で重営倉 伴卓二 67 会社嘱託 豊橋市
それからしばらく過ぎた某日.夜の点呼後,小隊長の訓示があった.「先般『御賜のタバコ』を下賜されたが,某隊の兵がこともあろうに慰安所の女にくれてやったことが判明して憲兵に逮捕された.わが小隊にはそんな不心得者はいないと信じているが,念のため注意しておく」その後のうわさでは,その兵は憲兵隊で殴るけるの体罰を受け,おまけに重営倉に入れられた,とのことだった.
「五族協和」の名の下に 滝口正次郎 71 無職 東京都 221-222
朝鮮の慰安婦たちも大勢連れてこられました.彼女たちがよく言っておりました.「朝鮮,朝鮮と言ってばかにするな.天皇陛下は同じだぞ」あの慰安婦の人たちは今どうしていることでしょう.
聖戦の実体と日本軍人の業 酒井与郎 66 獣医師 福井県 236-237
このときのある日,一人の朝鮮人元慰安婦が私たち大隊本部の将校宿舎にどなり込んできた.「お前ら日本の将校よ,お前らには帰る国,日本があるが,わしらのような女に帰る国が一体どこにあるのか」と元慰安婦は憤怒に燃えていた.ここではじめて私は,強制連行されて従軍慰安婦にされた朝鮮娘の悲劇を知った.そしてこれを契機にして,私のいままでの常識はガラガラと音をたてて崩れていった.「聖戦の実体」を改めて考えたし,天皇のためという日本人の業も知った.
インパール白骨街道の雨 佐野次丸 73 無職 小金井市 239-240
遥かラングーンの空からか,聞こえて来るは勅命を受けた将軍たちの談笑の声,酒席であろうか.甲高い嬌声は慰安婦たちのたわぶれか.ああ,万骨は枯れてゆく.
津田正太郎「第8講 メディアは国境を超えるのか」『メディアは社会を変えるのか』
<書誌情報>
津田正太郎,2016,「第8講 メディアは国境を超えるのか」『メディアは社会を変えるのか——メディア社会論入門』世界思想社,76-86.
- 作者: 津田正太郎
- 出版社/メーカー: 世界思想社
- 発売日: 2016/03/10
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1.グローバルな文化消費と遠隔地ナショナリズム
・衛星放送やインターネットの普及によって様々な情報や文化が簡単に超えるようになっている.
Ex)海外に移住した人たちが,移住先の国でも母国語のニュース・ドラマ・映画・音楽を容易に消費できる.
→ホスト国に同化せざるを得なかった移民たちは,移住先で母国の文化や言語を保持し続けるようになった.こうした状況は「遠隔地ナショナリズム」と言われる(アンダーソン 2005: 126).
こうした状況は,彼の移住先でもともと暮らしていた住民から,社会の統合が脅かされてしまうのではないかという不安を惹起する.欧州のトルコ系移民はホスト国から脅威として認識されている.
2.文化帝国主義
・文化帝国主義論
先進国の多国籍企業は,開発途上国に映画やテレビ番組,広告のような文化商品を輸出し,それらを通じて消費社会に適合的な価値観を人々に植え付けている.それらの文化商品は先進国の便利な生活に対するあこがれを与え,不利な取引であっても先進国との交易関係を続けていく.その結果,途上国の伝統的な文化や生活様式は破壊され,先進国に従属し続けてしまう.巨大な多国籍企業の資本による世界の分割,支配下生みだされる過程を論じる.
文化=ライフスタイルの安易な輸出は,途上国の人々の生存を脅かす一方で,技術や知識の普及が非人道的な因習を改める機会になるなど,一方的な断罪はできない.
3.サイードのオリエンタリズム
先進国のニュースで表象されるアラブ人は,冷静かつ理性的に自らの意見を述べる人物ではなく,デモや暴動で暴れる群衆として描かれている.これは先進国の国際通信社の記者によって報道されることで,意識的にせよ,無意識的にせよ,その報道に先進国の偏見が反映されているのである.
4.途上国による情報発信
・アル・ジャジーラ,アル・アラビーヤに代表される衛星放送局.
世界の衛星チャンネルの38%がアラブ人によって所有されている.政府による情報統制が反映された番組ではなく,Aの意見とBの意見を登場させた論争型の番組編成によって人気を博す.複雑な情報の流れができている.
〇コメント
・文化産業のグローバル化
多国籍化した文化産業が行使する支配権の及ぶ規模と範囲をというものに留意しなくてはならない.そして文化産業の所有とコンテンツは一致しない.所有の均衡は常に多様性と開放性に貢献するような形で作用するわけではない.
Ex) Sonyは世界へ向けて日本の文化を発信しているのではなく,ハリウッドの文化を生産している.
・メディアに媒介された文化的な力としてのグローバル化とその経験との関係について.
①グローバルな空間へ拡張し,その空間を変容させてしまうようなローカルな文化の能力
→グローバルな空間でローカルな文化が可視的になっていくことがローカルな文化それ自体にどのような影響を及ぼすのか.そのオーセンティシティを維持する能力にどのような影響を及ぼすのか.文化の固定化,文化の変容,ハイブリッド化.
②異なる空間,異なる都市にいるメンバーを結び付けるネットワーク,散り散りになっていった人々と,言葉のある意味において家郷に残った人々を結び付けるネットワーク.こうしたネットワークがメディアを通じて作動する.
⇔移民先の社会とグローバルな枠組みという矛盾をはらんだ空間でマイノリティが文化を形成・再形成していくときの異なるメディアの利用とその役割.社会において利用可能なアイデンティティの形成の様式を変容させる.文化形式の混在.
③イベントの共有
ナショナルの文化,ローカルな文化,宗教的な文化,プライベートな文化への浸透とともに,共有されていたイベントの意味と趣旨は分裂していく.トピックとしてはぐr-バルであったかもしれないが,それはローカルで特殊な利害やアイデンティティを表明するための資源になっていった.
[参考]
Roger, Silverstone, 1999, Why Study the Media?, London: SAGE Publication.(=吉見俊哉・伊藤守・土橋臣吾訳,2003,『なぜメディア研究か?――経験・テクスト・他者』せりか書房.)
- 作者: Roger Silverstone
- 出版社/メーカー: SAGE Publications Ltd
- 発売日: 1999/10/22
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あたかも事実に基づいているように見せかけて,トンでも解釈を開示する有害サイト一覧(Amazonカスターマーによるレビュー)
自身を在野の研究者とか,○○に関心をもって勉強している者,フリージャーナリストと名乗り,皆さんに「隠された真実」を伝えようとする良心的な人物であるかのように位置づけ,事実のでっち上げ,あるいはトンでも解釈をネット上に開示するのは,啓蒙の体裁をとったアジテーション(大衆を扇動する諸活動)である.
このようなフェイクニュースと人々がSNSで思いつきの嘘を発信することと決定的に異なるのは,それがニュースのような体裁をもっていることにある.いついつどこどこでこんなことが起こっているとある人が述べていますのような形で,われわれに確かさを伝えて来る.そうしたサイトを見抜く一番のポイントは,研究者のブログが一様に「教えてやる」「啓蒙してやる」といった態度でサイトを開設していないことに鑑みれば,自身を先生,アカデミックの内容を分かりやすく,といった中間者,仲介者と位置付けている点である.その時点で結構危ないやつであることがわかる.その人は自分で「知」を生みだせない.他人の知を自己の持つ信念に向けて加工する.
要するに池上彰の二番煎じがうようよいるんだ.
ここのページはそうしたサイトのおかしいと思った記事の部分だけ,備忘録として残しておく.
1.おしえてゲンさん
河野談話 | おしえて!ゲンさん! ~分かると楽しい、分かると恐い~
これらの内容を一見すると誠意ある謝罪のようにも聞こえますが、
国家はちょっと関与したが、主体はあくまでも民間業者である。
そして軍や国家が組織的にやったことではない。
だから国家の国際法上の犯罪ではないという見解です。
ですから政府は謝罪の意を表したが、賠償はしないと言う立場を取りました。
民間主体に行なったことだから政府は金を出さないが、民間に基金を作って償い金を出させようとしたのです。
そして下線を引いた部分もその後の歴史教育に生かすどころか、逆行さえしています。
その見解は今も生きていて、「お詫びと反省」は政府や国民の共通認識になっていないようです。
内閣官房内閣外政審議室の「いわゆる従軍慰安婦問題について」の5番目に慰安婦の出身地があります。
そこには出身地が、日本、朝鮮半島、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、オランダの5ケ国になっています。
実はそれ以外にもマレ-シア、マ-シャル諸島、ビルマ、ミクロネシア、東チモ-ル
その他の地域にも慰安婦は居たのです。
しかし政府が上記5ケ国(日本と中国を外す)としたため、
その後、他の国は無視されることになってしまいました。
その結果として、次項目のアジア女性基金の対象から外される結果になるのです。
そして政府はこの官房長談話で調査を終了したとしてそれ以降調査する努力を中止し、今に至っています。
そもそも論として,引用してある報告書と談話には誤字脱字があるので,このページをそのまま印刷して使うのはやめた方がいいです.原本はググれば簡単に出てくるのでそちらを使いましょう.そして彼の解釈は捨て置き自分で読み考えることをスタート地点にした方がいい.
アンダーラインのところすべて間違いであると考えてます.そもそも河野談話と内閣官房内閣外政審議室の資料のみでは,それ以降の展開を裏付けることはできない.文書それ自体にあたかも依拠しているように見せて,後半の地震の解釈はそれに全く基づいていないばかりか,論証の過程で典拠を開示していない点でお察しのクソ中のクソなトンでもサイト.歴史修正主義に対抗する良心的なポジションに身を置いている分有害度は★★★★★です.
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津田正太郎「第4講 戦争プロパガンダにメディアはどのように関わってきたのか」『メディアは社会を変えるのか』
<書誌情報>
津田正太郎,2018,「第4講 戦争プロパガンダにメディアはどのように関わってきたのか」『メディアは社会を変えるのか——メディア社会論入門』世界思想社,32-42.
- 作者: 津田正太郎
- 出版社/メーカー: 世界思想社
- 発売日: 2016/03/10
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1.プロパガンダとマス・コミュニケーション研究
・総力戦のなかで人々を動員するためには,「効果的な説得」が重要である.プロパガンダもマス・コミュニケーション研究もこの説得の効果を重視するという点で,戦争と密接な関係をもっている.
・プロパガンダ万能説は陰謀論に陥っている.プロパガンダはあらゆる要素のうちの1つに過ぎない.
・戦争の目的,敵の表象に最も端的に表れる.
Ex )目的の正当化,敵への憎悪の喚起,敵側を混乱させるための虚報(第三者効果).
2.プロパガンダとジャーナリズム
・メディア統制
Ex )ベトナム反戦運動の高まりは,メディアが戦争の悲惨さを伝えたからだという認識から,軍部は戦争時にジャーナリストらの自由な取材活動を制限するようになった.しかし,ベトナム戦争に関しては,メディア報道による世論形成ではなく,世論の反映としてのメディア報道であったことが指摘されている.
湾岸戦争ではプール取材方式が採用され,軍が情報を独占し,ピンポイント爆撃が繰り返し報道された.しかし,全ミサイルのうち7%が誘導式で,投下された爆弾の70%がたーふぇっとを外していたことは,あまり知られていない.いや有名か?
・メディア誘導
湾岸戦争の情報統制が問題となり,イラク戦争ではエンベデッド方式が採用された.記者が部隊と行動を共にすることで,現場を見ることはできたが,仲間意識により客観性が損なわれていることが指摘されている.
情報を統制する政府と軍VS抵抗し,「真実」を伝えるジャーナリストという構図は正しいのか?プロパガンダとジャーナリズムはちがうと言えるのだろうか.また,メディアにとって戦争はビジネスチャンスでもあり,戦争誘導に積極的に加担している可能性は十分にあり得る.また上からの統制ではなく,下からの監視による報道の画一化,自主規制も問題となる.日本軍によるあからさま統制が強調される一方で,GHQによる水面下の統制については過小評価されている(佐藤 2006: 95-6).
3.議論すべき点
・総力戦とプロパガンダ
→総力戦は,国内の大衆動員,敵対国の戦意低下や他国の協力をえるために,積極的な情報宣伝を展開した.心理や思想を標的とした四次元空間に広がった.この文脈でいえばジャーナリズムは異なる手段で行われる戦争となる.したがって,プロパガンダとジャーナリズムは二項対立で論じられないのではないか?
・日常世界とプロパガンダ
→戦争とプロパガンダというくくりは非常に了解できるのだが,戦時限定のプロパガンダというのは非常に狭い.コミュニケーションという言葉が持つ知的,日常的,楽しさ,といったきれいなイメージのなかにはプロパガンダという言葉が持つダーティ,デマ,反知識も含まれていなければならないのではないか?現代は戦争ではなく,日常生活に拡大するプロパガンダに目を向ける必要がある.それは差別や格差,暴力,偏見といった今日的な問題と結びついている.
[参考]
佐藤卓己,2006,『メディア社会——現代を読み解く視点』岩波書店.
- 作者: 佐藤卓己
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/06/20
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